二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: もう一つの獣の奏者 ( No.30 )
日時: 2010/12/31 15:40
名前: (梓!*、 ◆hLMPZ4CBa. (ID: aU3st90g)

*第17話*


「エリン、……貴方が頑張らないと、報われないの。でも、これは貴方にしか出来ない事。——やってくれるわね?」
「私、イアル君が助かるなら何でもするよ!」

念のため、イアルを物置の奥に隠した後、ソヨンは重々しく言った。

「—私、見てしまったのよ。エシュラさんが、慌てて家に帰るところと、銃を持っていたこと……」
「エシュラさんが…そんな訳、無い……」

ソヨンは「ほらね」と言うと、きつい瞳で言った。

「優しかったのは、裏の顔なのよ。でも、私が言っても何の効果も無い。」

さっきの行いで全てを駄目にした、ソヨンはそう言っているようだった。

「……だからエリン! どうにかして、エシュラさんの家に忍び込んで。そして、こっそり銃を持って帰って。そうしたらお母さんがハッソンお爺様に言って指紋、調べてもらうから」
「私に出来る……かなぁ」

エリンはぎゅっと服のすそを掴んだ。

「大丈夫、エリンだから頼むのよ。こうしている間にも、お役人が来てイアル君を連れ去っていくかもしれない…さぁ、早く」

エリンはうん、と頷くと、パッと駆け出した。

「今日ガシュラはいない、そしてアリエスさん達がいる……娘にこんなことさせたくないけど、アッソン…あの子を守って」

ソヨンの言葉は、誰にも聴こえなかった。




「こんにちは! エシュラ伯母さん!」
「エリンちゃん! 今日と、このあいだはごめんね…」

ガシュラのことを言っているのだ。

「大丈夫です。あの、それより、忘れ物を…してしまって」
「何をだい?」

エシュラの瞳をなるべく見ないようにしながら、「鞄と、小さい石です」と静かに言った。

「石? そんなものがいるのかい?」
「はい。お母さんと探した、ピカピカの石なんです。
今日気づいちゃって、来ました」

その後ろから、アリエスの声がした。

「エリンちゃん、探し物ー?」
「あ。……はい、ごめんなさい!」

その横からはリナエスの声がした。

「今日は爺さんいないから、ごゆっくり!」

少し鋭い声でリナエスが言う。


「こんなばあさんでよかったら、探すよ。 よっこらしょと、ピカピカの石ねぇ……」
「す、すみません…失礼します」


アリエスが近寄り、エリンに耳打ちをした。

「私がお婆ちゃんを向こうへひっぱりだすから、その隙に銃を取って。
そのあとリナエスに渡して…そうしたらリナエスがソヨンさんのところへ行くわ」
「……どの銃ですか?」
「真ん中よ。 あれ、お婆ちゃん! これかな?」

エリンは自分がいろんあ人に助けられているのを知り、涙が出そうになった。

「紐がでてるから鞄の取ってかなぁ?」
「どれどれ……ん、そうかもねぇ。エリンちゃん、こっちはいいから石を!」

アリエスはわざと物陰に隠れてくれたので、エリンは真ん中の血痕がついた銃を取り、リナエスに渡した。

「なかなか取れないねぇ。リナエスー!」

あやうくこっちを見そうになったエシュラに、エリンは言った。

「あの、あの…リナエスさん、厠に行きました。」
「もう。あの子は! ほらお婆ちゃん、もう少し!」

ぐい、と引っ張ると、アリエスが仕込んだ鞄が出てきた。
エリンもじゅうたんの上にあった石を掴むと、「あったぁ!」と声を上げた。

「ありました。ごめんなさい! あ、リナエスさんによろしく言っておいてくださいね」

と言いながら、ゆっくりと家を出た。
その後ろで、アリエスが「お婆ちゃん、腰痛い?……ここで休んで」と言っているのが分かった。


エリンは、イアルが無事だということを願わずにいはいられなかった。