二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: もう一つの獣の奏者 ( No.8 )
日時: 2010/12/10 17:19
名前: (梓!*。 ◆hLMPZ4CBa. (ID: aU3st90g)

*第1話*


「あなたは、誰?」

エリンが首をかしげて言った。
だが、少年は疲れきっていた故に返事をしたかも覚えていない。
暖かい草むらの上に転がるようにして倒れると、
青々とした空と、慌てるエリンの顔が見えた——……。


コトコトと鍋が揺れる音で少年—イアルは目を覚ました。
ゆっくりと起き上がると、緑の瞳をした少女が笑ったのがぼやける視界の中で唯一見えたものだった。
「お母さん、起きたよ! 大丈夫?まだ寝る?」
透き通ったなめらかな声を聞いて、イアルは微かに身じろぎをして答えた。
「大丈夫——……だけど、ここは?」
「私の家! どこから来たのか、分かる?」
同じく緑の瞳をした母らしき女からスープを渡してもらいながら、エリンの真っ直ぐな瞳を見た。
「俺、イアル。たぶん、真王領……——ここは?」
「ここはアケ村。お母さん、真王領って何処?」
エリンは振り向いて聞いた。
お母さんと呼ばれた女がちらりとこちらを見た。
「貴方はホロン? ここはワジャクの集まりよ」
「自分が何処で生まれたか、知りません。
でも、堅き盾の修練から逃げ出しました」
エリンがびっくりしたような声を上げた。
「え、じゃあ貴方強いの? 闘蛇食べちゃうの?」
女が笑いながらエリンに答えた。
「エリン、闘蛇を食べれる人はいないって言ったじゃない!」
イアルは明るいのに慣れて来たのか、目を見開いた。
「山、リンゴ——……?」
「そうよ。私はエリン! 宜しくね」

柔らかい手を握ると、彼には無縁だった暖かさが伝わってきた——……。