二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 孤独な科学者のキセキ【ココロ/ココロ・キセキ】 ( No.6 )
- 日時: 2010/12/08 20:50
- 名前: トト ◆ZpFsxXFvJo (ID: xDap4eTO)
Prologue ココロver
実に殺風景な部屋だった。
真っ白な壁、天井、床。この部屋——一部屋しかないこの家の入り口は私の視線の奥にある一つのドアのみで、窓すらなく外の景色は見えない。そのうえ部屋が一つしかない分なかなか大きい部屋の半分ほどは、パソコンを始めとする機械で埋まってしまっている。生活必需品は簡素な机と椅子のセットだけで、ベッドすら見当たらない。
そんな面白みの欠片も無い部屋に住むのは、私と今目の前にいる人物の二人だけ。
「よしリン!今日はこの歌を歌ってみよう!」
そう弾んだ声で言って、目の前の人物は半ば押し付けるように文字の綴られた紙の束を渡してきた。
眼前の人物は見た目は二十代前半で、所謂「青年」と呼べる年頃の白衣を着た男性。しかし人懐っこい笑みを浮かべ、人間で言う『胸をわくわくさせている』その姿は無邪気な幼子の様にも見えた。
眼前の人物、それは私のマスター。
より正確には、私『リン』を造り上げた天才科学者・レン。
マスターから渡された紙の束が何なのかは、大体予想はついていた。紙の束に目を通す。案の定、マスターが作った歌詞が書き込んである楽譜だ。
案の定、と言うのはマスターは私が生まれてから毎日の様に自分の作った歌を私に歌うように求めてくる。しかも歌は日毎によって違うものになっているのだ。
「了解シマシタ、マスター」
私の応答は、毎日同じものだけれど。
それでもマスターは無邪気な笑顔を私に向けてくる。
私は歌う。何の為と問われれば、それはマスターが頼んでくるから。それ以外、何も無い。
私が歌い終わると、マスターはやはり無邪気な笑顔のままパチパチと拍手をする。
「うん、リンはやっぱり上手いね!凄く上手いよ!」
私はただ定められた音程に合わせて、鉛筆で書き込まれた歌詞をなぞるように歌っていくだけ。が、マスターは私が歌うことだけでも凄いと言うような感じで、大袈裟に私を褒める。
私の歌に対し一通り感想を述べると、マスターは拍手をする手を止めさっきまでの無邪気な笑顔とは変わって、何か考えるように腕を組む。
暫く思案顔のままだったが、やがてその状態のままマスターは一言。
「上手いけど、やっぱり——」
一つ間をおいて、
「ココロ、が足りないかなあ」
ぽつり、と呟いた。