二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 〔銀魂〕___雫ヲ流ス ( No.177 )
日時: 2011/07/31 14:52
名前: 瑠々 (ID: r9bFnsPr)

第二十二話 黒と紫と、思い出と。


真選組が、五月の三日に攻める事も知らず、瑠璃は何時もより少し早く起きて、鬼兵隊の船の廊下を歩いていた。
瑠璃は今日、夜明けとほぼ同時に起きた所為か、廊下には誰も居ない。

万事屋に行くまではかなり時間があるので、それまで如何しようか、と思いながら廊下をウロウロしていたとき、するりと着物の裾から何かが乾いた音をたてて、滑り落ちた。

(あ…)

裾から滑り落ちたのは、若草色の古びた教科書だった。
所々血が付いたり焦げたりしているが、色は落ちていない。

(松陽先生……)

脳裏に過ぎる、優しい笑顔を持つ己が師・松陽の顔。
この教科書は松陽に拾われた日に貰ったものだった。晋助に再会するまでは、ずっと握り締めていた。
瑠璃は、教科書の間から覗いた二枚の写真を抜き取った。

一枚は殆ど一日中見ていた、幼き日の写真。
そしてもう一枚は、青い髪の少女と今と余り変わらない自分。

(この写真、攘夷戦争の時の…)

今から三年ほど前の写真。
瑠璃は攘夷戦争に参加していた。だが、何処の隊にも属さず、
小さな、もう何年も人が住んでいなさそうな家に一人でいた。

もう、誰も失いたくないから。

そう思い、ずっと一人で居た。

一人の少女に出逢う前までは。


その時、自分の背後に人の気配を感じ振り向くと、そこには
晋助が立っていた。

「し…高杉さん」

その時、今自分が持っているものに気付いた。
二枚の写真と教科書。しかも二枚のうち一枚の写真と教科書は、晋助なら絶対に分かる。
でも、時既に遅し。

高杉は瑠璃の持っている写真と教科書に気付き、右目を見開いていた。

「…えっと、あたし出掛けますね!」

瑠璃は慌ててその場から離れようとしたが、晋助に腕を掴まれた。

「…なんで、オメェがそれを持ってる?」

「っ」

瑠璃は何も答えず、晋助の手を振り払おうとしたが、男の力に敵うはずも無く。
晋助は瑠璃の持つ写真と教科書を愛おしそうに、でも憎しみのこもった目で見ていた。

「———高杉さんに、教える必要なんて無いじゃないですかっ」

こういうしか無かった。
晋助達の知っている、『水無月瑠璃』はあの時死んでいるのだから。

「…そうか」

晋助はそう言うとパッと腕を放した。
瑠璃は写真と教本を裾に入れると、走り出した。


(ごめん、晋助っ)

瑠璃は涙を必死に堪えながら、ただ廊下をひたすらに走った。