二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエスト—Original— 漆黒の姫騎士 ( No.124 )
- 日時: 2011/07/02 21:46
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: fckezDFm)
・・・が。セファルは、先ほどの自分の悩みが全く無意味であることを悟った。悟らされた。
何故なら。
「っ、———はぁぁぁぁぁっ!!」
「なっ!?」
シーナは、体重など無いかのように跳躍したかと思うと、一気にセファルの眼先をかすめる。
くっ、と顎を持ち上げ、後ろへ跳び、辛うじてかわして着地する。速かった。
試合開始直後の余裕の表情はもう作れない。
(いやしかし、ちょっと待て。こいつ・・・いつの間に、こんな強くなったんだっ!?)
シーナはまだ剣術を初めて二年のはずだ。はずなのに。
剣教師ハーネスからは確かに、彼女の実力のことは聞いていた。天賦の才、生まれながらの騎士の才能・・・
だがまさか、これほどだとは。
(・・・だが、まだ・・・一応は、未熟のようだが・・・?)
が、しばらくして、セファルは気付く。まだシーナは、相手、すなわちセファルの行動パターンを読み切れてはいない。
反応が素早すぎるからセファルの仕掛けた攻撃をかわせるだけで、相手がどう来るのか、どう動くのかが分かっていない。
また、セファルが完全に本気を出していないことも、気付いていない。
(・・・才能、か・・・発達が早すぎたんだよ、おま)
「うっ!?」
と、そのとき。シーナの細剣が、セファルのそれに激しくぶつかった。知らず内に汗ばんだ手と
考え事をしていた事実、そしてもう一つの彼なりの“手加減”のせいで、セファルの細剣は彼の手から抜け落ちた。
呆然、とするセファルに、シーナは構えを治すと、誇るように笑った。
「っしゃ。わたしの勝ち、かな?」
「いや聞いてくれるな。・・・まいったな、いつの間にそんな強くなったんだ?」
セファルが尋ねたとき、シーナは、むぅ、と不機嫌顔を作る。
「みんな、そう言うんだ。別にまだ、わたしは強くない。お兄ちゃんの動きだって、全然見極められないしさ」
何だ自覚していたのか、と若干脱力する。が、自分の弱点を知ることはいいことだ。
「ま、すぐにできるようになるさ。・・・いやしかし、まさか家事云々より戦闘の方が得意な姫様がいるとは思わなかった」
「お兄ちゃんまでそういうこと言う」シーナは更に膨れる。
「頬、パンクするぞ」笑いながら、シーナの頬をつつく。ぷしゅっ、と情けない音がした。
「あ、やったなっ」
「やったがどうした、・・・ってまぁ、冗談はその辺にして。・・・なんだ、誰かに同じこと言われたのか?」
「ハーネスとアンナとカセムとオリシアと母様とお兄ちゃん」
多っ。
「・・・まあ。美形でがさつでおてんばで気が利いて喧嘩が強きゃな。しとやかさを求められるだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・せめて褒め言葉とけなし言葉を分けてくれる?」
冗談は微妙に伝わらなかったらしい。
「悪い悪い。・・・でもまぁ、言われることはもっともだと思うぜ? 剣術はともかく、
そのざっくばらんな性格と言葉遣いは直さないと、グラデンヘルゼに嫁いだとき、おてんば姫、とか呼ばれるぞ」
セファルは言ってから、後悔した。シーナは膨れ面に加え、目つきを険しくした。
触れてほしくない話だったのだろう。
「・・・わたし、この身分が嫌いだ。自由がない。つまらない。・・・グラデンヘルゼなんか、行きたくもない」
「・・・悪かったよ、シーナ」セファルは謝る。「だが、仕方ないんだ。・・・こればかりはさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」シーナは俯き、返事をしないまま、セファルの細剣を拾い上げる——
同時、セファルは、あ、やば、と思った。
「・・・ん?」
シーナは表情を一転、怪訝そうな、拍子の抜けた声をあげる。セファルは若干後退開始。
「・・・・・・・・・・・・・・・・これって」
シーナ、呟く。背後に黒い妖気らしきものが見えたような。
「・・・・・・・お兄ちゃんっ、これ、わたしのよりずっと軽い奴じゃないっ!!
まぁさぁかぁ、手加減していた・・・?」
やべぇこれは殺される、とセファルは本気で思った。
「いや悪い、許せ、だってシーナに怪我負わせたら叱られるのは俺・・・危ない危ない!」
「逃げるなぁ、言い訳、みっちり聞かせてもらうからっ」
「今ので全部だ!」
細剣を持ったままシーナはセファルを追いかける。次の行動が目に見えたセファルは当然、脱兎の勢いで逃げ始める。
・・・その足が互いに止まったのは、その音が鳴り響いた時だった。