二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエスト—Original—  漆黒の姫騎士  ( No.128 )
日時: 2011/07/24 22:49
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: fckezDFm)

 誰も話してくれない。
 誰も目を合わせてくれない。
 誰も教えてくれない。

 誰も——なにも、言わなかった。


 シーナと、セファルと、ヒールと、名も知らぬ兵士の四人がいた。
 シーナは、ずっと黙ったまま、兄の背を追い続けた。
 何を知っているの、何で敵なんかが来たの、何で魔物がいるの。それに、・・・それに・・・
聞きたいことはいくらでもある、訊いても訊いても、次々と疑問があふれてきそうだ。
 何で、どうして、何故。
 だが、訊けない。後ろから見る兄の背中は、全ての質問、否、全ての発言を拒否しているように思えた。
(やっぱり今日は、何かがある日だったんだ、だからあんなに慌ただしかったんだ。
お兄ちゃんだって、そのことを知っていたはず、何で嘘なんて)
 今日は城抜け出せる雰囲気じゃないし。膨れ面をしたシーナに、俺もよくは知らないんだ、そう言ったじゃないか。
 どうして教えてくれなかったの、どうして逃げるの。城の人たちは。街のみんなは。どうして、隠れるの・・・


「シーナ」


 いきなり、名を呼ばれた。全てを問いただしたかった、セファルに。
びくっ、として、シーナは足を止める。セファルはシーナの背に合わせてかがむ。まっすぐに、視線がぶつかる。
「・・・いいか、お前はこのままヒールについて行け」
 訳が分からないなりにも、言われるままに頷く。よし、とセファルは言って、体勢を戻す。
そこでシーナは、その言葉を思い返す。お前“は”?
「・・・ちょ、お兄ちゃんは?」
「・・・訊くなよ、それを。俺は、・・・城の者や町民に避難指示を出さなきゃならない。だから、先に行け」
「・・・・・・ちゃんと、戻ってくるんだよね?」
「当たり前だろ、物語みたいに、別れて二度と会えないなんてことになるか」
 本当だね、念を押す。確かに頷いていた。ヒールのせかす声が聞こえる。が、シーナはなかなか動かない。
セファルは溜め息ひとつつくと、「仕方ないな」と言って自分の剣を外す。
「・・・約束だ。これは俺の大切な剣だ、今はお前に預ける。で、必ず返してもらいに、シーナに会いに行く。
これで、どうだ?」
「え」
「心配するな、俺にはまだ予備の武器がある、だから、渡しておく。・・・そんな顔するなよ、預けるだけだ」
 もう一度、本当に? と念を押す。嫌な予感がしてならなかったのだ。セファルは頷く。シーナも頷き返す。
そして、首にかけさせられていたシーナの名の入ったペンダントを外し、怪訝そうな表情のセファルに押し付ける。
「じゃあ、わたしも預ける。・・・あとで返してね? ・・・絶対に」
「・・・ははっ、分かったよ。大事なものだもんな。・・・そろそろ時間がまずい。・・・さ、行くんだ」
「うん」
 シーナはくるりと踵を返すと、ヒールを追う。セファルはそれを見送ると、微笑んでいた頬をしっかりと引き締めた。



「・・・そう言うわけだ。俺は簡単には死なないぜ。・・・リュガセラ国騎士団長、ヴェルダン・マラスィトム」



 セファルはその説明を——残された、名も知らぬ兵士に向かって、言った———。