二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエスト—Original— 漆黒の姫騎士 ( No.13 )
- 日時: 2010/12/15 17:43
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: mTJrvItN)
【 序 Ⅱ 】
広大な大地の広がる、優しい光に包まれたその世界、セルファイテスと呼ばれる大陸に、その国はあった。
少々くすぶった外壁と、雑草の伸びた荒れ庭を持つ、ところどころが朽ちた大きな城。
数百年も前、謎の消滅を遂げた、幻の大国マレイヴァ。
他国との交流も深かった世界一の栄え国として知られ渡ったはずのマレイヴァの国を今この世で知っているのは、
今やたった一人しかいなかった。
・・・その一人以外は知らないこと——何故この世が平和でいられるのか、
何故古に存在せし邪悪なる魔物がマレイヴァの消滅と共に消え去ったのか。
そう。今この世にマレイヴァという国が知られていないのは、マレイヴァ滅びしとき、世界に妙な噂が流れたからだ。
マレイヴァは魔物の国だったんだ。
あの国と交流した国もグルかも知れない。
噂を恐れた国々はおそらく、即刻にマレイヴァの国の名を消し去ったことだろう。
自らが書き示していた、その国ごとの歴史書から。
——その“一人”は青年だった。珍しい蒼色の髪と、同じ蒼色の眸を持つ——二十歳の青年。
その青年は、小さな舟に乗っていた。
自分の住む村の近くの港町から、暇そうな船乗りに頼んで乗せてもらったのだ。
青年の少し長い髪が、潮風に泳ぐ。それを手でかき上げたとき、船乗りの声がした。
「おぅい、兄ちゃん。ほんとーにこっちで当ってんだな!?」
「ええ」青年は返す。「当たっています」
「しっかしなぁ・・・」船乗りは視線を目の前に戻して、顔をしかめる。「何も見えんぞ」
「もうすぐですよ」青年はもう一度返した。
なるほど確かに、“もうすぐ”だった。
まもなく陸がぼうっと見え、船乗りも安心したのだろう、舟のスピードを若干あげた。
船は陸地にピタリと着いた。青年は軽い身のこなしで船を降りて、船を降りた。
「ほんとーに帰っちまっていいのか?」
船乗りは訝しげに尋ねる。
「ええ。まさかここに一日中いていただくわけにもいきませんし」
「だからってなぁ・・・お前さん、ここは無人島だぞ? どうやって帰んだよ。
・・・いやそもそも、何をする気だ?」
「それは言えません」青年は頭を振る。「ですが、大丈夫です。ありがとうございました」
船乗りはなおも反論しようとしたが、これ以上何を言ってもこの男は動じないだろう、と思ったために、
手をひらりと振って舟に戻った。
エンジンをかけるまでに少々時間がかかっていたが、やがて海の向こうに消え去った。