二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエスト—Original—  漆黒の姫騎士  ( No.130 )
日時: 2011/07/31 21:02
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: fckezDFm)

 ——ぞわり、と。
 シーナは、確かに感じた。嫌な気配、予感、・・・。
「・・・ヒール、戻ろう! なんか、」
 だが、シーナの言葉は、そこで途切れた。切れさせられた。


 シーナは見た。目の前に広がる闇、形ある——






 セファルは唇を引き締めたまま、全神経を集中させて兵士を睨みつけた。
 ヴェルダン・マラスィトム、そう呼ばれた兵士は、突きつけられた剣に怯むこともなく、
騎士が姫君の踊りの誘いを受けた時のように、ゆっくりと兜を降ろす。

 癖のない黒髪、意志の宿る瞳、歳は四十ほど。
が、立ち居振る舞いからは、一人の戦士としての若々しさを感じ取れる。
「・・・お初にお目にかかる、マレイヴァ第一王女ヴェルシーナの[兄君]、セファル殿下」
「・・・こちらこそ」
 一言で返してから、ヴェルダンが何か言えと言わんばかりの視線を送ってくるのに気づく。
念のために——言った。
「・・・あんたが、あいつの、本当の——」
「・・・さすがは殿下、よく御存じで」
「根拠は言わない、あいつが可哀想だからな」
 くくっ、と、ヴェルダンが笑う。
「随分と、愛していらっしゃるのですね。——血もつながらない、[妹]のことを」
「・・・・・・・・・・」セファルは答えない。
「・・・来るべき時は来たのです。運命は変えられません、変えようとすれば、必ず何かの代償を支払わねばならない。
さぁ、その剣をお収め下さい」
「言ってろ」
 ハイそうですかと、収めるはずがなかった。
変わらず、切っ先を相手に向けたまま、睨み続ける。
「・・・お前の運命とやらは、俺を殺すことだろう。だが、俺の運命は、あいつを——シーナを、守ることだけだ」
「名言ですな」ヴェルダンは笑う。
「ですが、運命は、一つだけ。二つあることは、許されないのです——さて、どちらが正しいのでしょうね・・・!」
 二人はたがいに身を低くし——そして、地を蹴った。
金属音が響く———・・・。




 悲鳴など、何年ぶりにあげたのだろう。
シーナの口から洩れたのは、あげることを忘れていた、つぶれた悲鳴だった。
頼れるはずだった兵士長、ヒールが、いきなり崩れ折れ、血を撒き散らす。
傷を負わせたものの正体は、すぐに分かった。ヒールの目の前に立っていたもの。
大きな鱗を何枚も重ねた、長く、太く、生々しい、大蛇の魔物。
「う、あっ・・・」
 がくがくと震え、後退り、だが、足がもつれる。壁に背が当たる。金属音がする。
「・・・・・・っ・・・!」
 壁とぶつかった、兄の剣。また会うための、証——


 [また会うための]。


「うっ・・・うああああっ!」
 シーナは気合の声を発す。震える手で、必死に剣を引き抜いて。
兄の剣は、今まで使った度の剣よりも、硬く、重かった。こんなものを先ほどの鍛錬で使われていたら、確実に
数秒ほどで負けていただろう。それだけの実力を秘めていながら、わざと手加減をした兄、おどけた顔、笑った目。
 生きて、また会ってみせる。儚く、あっけなく死んでしまった、ヒールのためにも、絶対に。
 怯えか、それとも剣の重さにか。シーナの手は震えていた。武者震いだ、と思ってみようにも、上手くいかない。


 敵が向かってくる。だが、シーナは、そのとき—— 一人の、“騎士”となった———・・・。