二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエスト—Original— 漆黒の姫騎士 ( No.132 )
- 日時: 2011/08/30 06:35
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: Xn5/gwB3)
緊張と安堵の吐息が、シーナの口から漏れる。
「や・・・った」
手に収まる重い剣を、握りなおす。先からは、血の雫が零れ落ちていた。
目の前で、ぴくぴく蠢く、瀕死の大蛇のどす黒い血。
今ここで止めをささなくとも、直絶命するだろう。
シーナは目を伏せた。自分でさえ、驚いた。大蛇が向かってきた時から、記憶が曖昧だ。
ありえないほど身軽に跳躍し、ありえないほど早く重く剣を振り。そう——言うならば、この時だけ、
シーナの中に——自分の中に、何かがいて、そいつが動いているような・・・そんな感じがしたのだ。
「・・・・・・・・・・・・・っ」
シーナは血を拭い、鞘に納めた。後でよく手入れしておこう。無意識に、そう思った。
立ち上がる。どうしよう、と思った。
さっきは、嫌な予感がして、戻ろうとしたのだ。・・・だったら、そうすればいい。戻ろう。
「安らかに・・・ヒール」
素早く祈り、シーナは踵を返した
———時。
何かが、シーナの行く手を、遮った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!」
シーナの身体が大きく震えた。無意識に再び剣に手をかけようとする。まっすぐに見ることができない。
だが、瞳は険しく、その陰を睨みつける。
が、いかなる力が発動したのか。その手が、途中で動かなくなる。
「な・・・」
陰が、ふっと笑った—あくまで、シーナにはそう見えた—。
「敵意をむき出しにするものではない、わが妹よ」
「!?」
シーナは目を見開く。“妹”?
(・・・お兄ちゃ・・・)
思いかけて、ありえない、と思い直す。
全然違う者だ。顔は見えない。だが、声に覚えはない。
「・・・誰、お前はっ・・・」
震える声で、尋ねる。先ほどよりも、目つきは険しくなっていた。
が、陰は怯まない、なだめるように、穏やかに言うだけ。
「言った通り——お前の“兄”。—————“本当の”な」
「なっ」
険しかった眸が、驚愕に見開かれる。
「・・・は。何それ。わたしの兄はただ一人しかいない!」
「その通りだ」陰は言う。「ただし——その名は“セファル”ではない」
「馬鹿なことを・・・早く退きなさいよ」
「無理もないか」シーナの声を無視し、陰は言う。「記憶を奪われたままではな・・・仕方あるまい」
「!!」シーナはまたしても驚く。何故知っている、自分に記憶が——おそらく六歳以前の記憶がないことを。
もう声の出ないシーナに、陰は静かに囁く。
「[覚えておくがいい]・・・兄と思い込んでいるあの男は、全くの別人であることを。
そしてお前は——紛れもない、わが妹であるという事実を」
「・・・ふ、ざけないでっ!!」
シーナが強く意識を集中させる。先ほどの、“自分の中の何か”に力を委ねてもいい、この陰を斃さなきゃいけない、
そう思った、
——————————— ギンッ!!
「———————————うあああっ!!」
——が。
シーナは、強く胸を抑えうずくまった。その“何か”が——壊されたような、封じられたような、
そんな感覚に襲われたのだ。
「う、っ・・・・・・・・・・くっ」
「その力はまだお前には早い」陰はあくまで静かに、語り続ける。「お前の身体を破壊しかねない」
「ぁ・・・・っ」
何、と言おうとした。が、子音は言えることなく、頼りない息遣いが零れ落ちただけ。
「お前の力がその能力に耐えられるようになった時・・・そしてお前の記憶を解くに相応しくなった時、
その能力を開放しよう。・・・それまで、」
またしても、シーナは声にならない悲鳴を上げる。が、それは一瞬。
呆けたように、何も分かっていないように、目をしばたたかせる。
・・・今起きたことの、記憶を封じられたのだ。
「それまで・・・この剣は、預かっておこう。この瞬間があったことの、証としてな」
小さな、遠ざかる声がした。