二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエスト—Original—  漆黒の姫騎士  ( No.133 )
日時: 2011/08/18 18:10
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: Xn5/gwB3)

 どれくらいの時が経ったのか。





 ———気が付くと、シーナは、見慣れぬところに倒れていた。

「・・・・・・・?」
 起き上がる。何故、こんなところに。何故、寝ていたりなど——




「!!」




 すぐに、我に返る。真っ先に思い浮かんだのは、[先程別れた]“兄”の事。
(・・・別れて・・・ヒールについて行って・・・)
 ・・・それで、どうして倒れているのだろう。外にいるということは、逃げることができたんだろう。
・・・で、どうして?

頭を抑え、ゆっくりと気持ちを整理した——その時、目の前を黒いものが横ぎった。
 驚いて、地面に落ちたそれを見てみる。
・・・何かの、焦げた跡だった。つまみあげると、ぱらぱらと散ってしまう。
火事? ——そこで、全てがはじかれたような衝撃がシーナを襲う。
立ち上がる、あたりを見渡した。そして—— 一番信じたくないことが、その目に映っていた。





 城が黒い。







 城が、燃やされていた。








「あ・・・・・・っ」
 シーナは震える身体を自分で抱きしめ、歯を鳴らした。
先程まで威厳ある姿で建っていたであろうマレイヴァの王城が、見るも無残な様子に朽ち果てていた。
 シーナは走り出す。人の多いところへ、何かが分かるところへ。
嘘だ、夢だと、言い聞かせたい。こんなのは現実じゃない。いつまで寝惚けているんだ。

 ・・・言いたいのに。



 ・・・言えない。


 自分と同じくらいの年の少女が泣いていた。
 人目を気にせず、若者が叫んでいた。

 聞こえる。
 絶望の声。
 戻らない命への叫び。
 受け入れられない事実への——

 許せねぇよ。何でいきなり、魔物なんかが来るんだよ。
 何で私たちが、こんな目に合わないといけないの。
 何で、火なんか放ったんだ。

 ・・・泣き崩れる彼らの前に、もう息をしない者たちが横たわっていた。
 火事で焼けた者。
 崩れた壁に押し潰された者。
 魔物に殺された者。


「王妃様は、姫様は!? セファル様も、どうなってしまわれたんだ!?」
 誰かのその声に、シーナはようやく意識を取り戻す。
 いない・・・いない! 母も、兄も。[この中]には、絶対にいない・・・!
 シーナは今更、フードをかぶった。見られたくなかったのだ。
——わたしは、ひとり逃げ出したのだから——
「・・・っ!」
 そこで初めて、シーナは気付く。兄の剣がなかった。生き延びて、返すはずだったのに。そこには、何もなかった。
(嘘・・・嘘! 一体、何処にっ・・・)


「おい!! これは・・・姫様の首飾りだ!!」


 ・・・違う者の声がした。



 ・・・シーナの中で、何かが壊れる音がした。





 無我夢中で、人々を押しのけ、声の方向へ行く。
ペンダントを、まっすぐ見る。




 それしかなかった。
その近くには、誰もいなかった。



 兄の姿がない。





 だが——シーナは、それを見て・・・拾い上げ・・・
「姫様!?」
「ヴェルシーナ殿下!!」
 そして、そこに付いた一滴分の血に触れる。


 [兄の血だ]。


「あ・・・・・・・・あぁぁぁっ・・・・・・・」


 シーナの身体が、どうしようもないくらいに震える、涙が、絶望の形が、次々と溢れていく。

「うっ・・・うああああああああああああああっ!!」

 そして、シーナは、声の限りに、叫んだ———












 —————どこにいるの?











 ここにいない兄の面影を、探しながら。


















「——おい、城に火を放った奴の名が、分かったぜ」
 どれくらい経ったのか。誰かが言う。シーナは、虚ろな目を、ゆっくりと開けた。
「どうやら・・・どこかの兵士らしい。フェイクス、とか言う奴らしいぞ」

 どこから手に入れた情報だよ。やけに詳しいな。いや、ただの噂だ、確かに詳しすぎるのが気になるが・・・

 あとの言葉は、聞こえなかった。


 だが、十二歳の幼き姫君の眸は、先程とは打って変わった色を成していた。



 『フェイクス』。
 城に火を放った者の名。




 ——その眸は、抑えきれない強い感情を宿した、復讐の色だった——・・・。


















 ・・・それから、何年たった?
 [リーシア]は、目を細めた。
五年。そう、五年だ。
あれから——既にそれだけ経っているのに。未だ、何の収穫も得られていない。
母の消息も知れない。兄も——何もかも。


 ———————「・・・リーシャ? 夕飯だよ」
 宿屋、マイレナは、戸惑いがちにリーシアの個室の扉を開いた。
彼女は寝ていた。だが、何処か、苦しそうに。
 頼りない月明かりが、リーシアの顔面を白く濡らしている。何かが、小さく光った。
「リーシャ・・・泣いているの?」
 返事はない。マイレナは哀しげに、唇を結んだ。ゆっくりと、扉を閉じる。


 いつ気付くことになるのだろうか。十七歳の姫君の仇が、すぐ近くに見えていることは——









 月が、ただ白く、夜を照らしている。









              【 断章——リーシア 】 完結。