二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエスト—Original—  漆黒の姫騎士  ( No.33 )
日時: 2011/01/19 17:56
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: r1mGYZkZ)

 リーシアには六歳以前の記憶がない。
彼女の右手には、いつも黒の革手袋があった。そこに、爪を仕込んである。
彼女が革手袋をとらないのには理由がある。火傷だ。リーシアの右手に人差し指と中指はない。
手の甲はただれ、小指は十分に持ち上がらない。だから彼女は左利きとなった。
 火傷はリーシアの記憶のある六歳の時には既に、そこにあった。つまり、その火傷は六歳以前に負ったものだ。
 リーシアの失われた記憶に関係あるのだろうか。マイレナはいつもそう思う。
そして、その記憶を取り戻すのは、リーシアにとって良いことなのだろうか。
時々、リーシアは強く目頭を押さえる時がある。それは、記憶が蘇りかける時の状況だと、最近知った。
だが、蘇ったことはない。その時の彼女は、苦しそうだった。
 ・・・さっきも。


————「レイサの首飾りだけど」
 リーシアはポツリ、と呟いた。
「ん・・・? 首飾り?」
「かけてただろ? ——って、覚えてるわけないか」
「決め付けるな」
「覚えてるの?」
「・・・・・・・・・・・・・スミマセン」
 あっさり折れ下がったマイレナに、リーシアはやっぱり、と言って髪を払った。
「・・・あれ、世界樹の葉の形をしてただろ? ・・・世界樹人の伝説、覚えてるか?」
 世界樹人。その説明は、後に触れることとなる。
「・・・じゃあ、あれが世界樹人の首飾り?」
「・・・いや、確証はない。・・・なんか、気になったんだ。
・・・どこかで、同じようなものを、見たことがある気がする・・・」
 トーンが下がったリーシアの声に、マイレナは反応した。目を見開き、振り返る。
 リーシアは目頭を強く押さえていた。記憶が・・・! マイレナは声をあげそうになって、必死にこらえた。
話しかけてはいけない。どんなに苦しげでも、話しかけては・・・

 ・・・リーシアの手が、目頭から離れた。

「・・・っは。・・・ごめん。駄目だな、こういうのが来るから、油断できないんだ・・・
今が戦闘中でなくて良かったよ」
 そう言って、リーシアは肩をすくめていた。————



「さてと」
 マイレナ、買ったばかりの(一番安い)剣を構える。
「ん」
 リーシア、短く答える。
「・・・いっくよぉ・・・そぉれっ」
 そして、力いっぱいに、リーシア、・・・の横の岩目がけて振り下ろす。

              がんぐわっしゃんっ!

 ・・・あえて言うなら、そんな音がした。
 思いっきり力をこめて叩きつけた結果、その剣は・・・壊れていた。
焼きが甘い。適当に使う分には問題はそうないだろう、だが、
実戦で使えば、明らかに使い物にならないものだった。
「なるほどね。今までの旅人は、この武具防具を着て戦った可能性がある。・・・勝てなくて、当然だ」
「あるいは、戦わずして生け贄にされたか・・・か」
 マイレナは身震いした。リーシアは使い物にならなくなった武器をそこらに捨てる。
「とりあえず、住民は欺けたな。・・・さて、今・・・何時だろうか」
 リーシアが何かを探す。マイレナも習う。
「いた」「あった」
 そして、リーシア、マイレナの順に、ほぼ重なって言った。
「・・・・・・? リーシャ、今、『いた』って言った?」
「言ったよ。ネコがね」
「はあ? ・・・うわ、凄い黒っ」
 まさかコイツねこ語で「今何時ですかニャ?」なんて聞くのではあるまいなとマイレナは思った。
まあそんなキャラじゃないか、と改めて思ったが。

「今、何時?」

 なんて言ってるではないか!
 いや確かに「ニャ?」何て言わなかったが、律儀に思ったことを言わなくてもいいじゃないか!?
 ネコが可愛く「にゃあん?」となく。首もとの鈴がちりん、と鳴った。
コツンという音も聞こえたが、それは気にしないでおいた。というか気にするべき事でもなかった。
「分かった。ありがと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 マイレナが妙なジト目でこちらを向いていることに気付いたリーシアは、ニヤリ、と笑う。
「任務時間まであと一時間。——どう?」
 マイレナは「はっ?」と呆けた声を出し、慌てて先ほど見つけた時計を確認する。
「・・・・・・・・あってる」
 何でだ——ッ、とマイレナが思っているところに、リーシアの容赦ない突っ込みが入る。
「わたしがネコと会話したなんて思ってないよな?」
 思ってます。・・・と思ったが、一応流し目でごまかす。
「目時計だ。ネコは時間ごとに、目の瞳の大きさ・・・太さが変わるんだ」
「そ、そぉ、な、の?」
 何ていう雑学を、とマイレナはひそかに思う。