二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエスト—Original— 漆黒の姫騎士 ( No.40 )
- 日時: 2011/09/09 21:10
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: Xn5/gwB3)
戦闘は続いていた。
さすがにこれは“勝負”とは言えない。明らかな殺意、明らかな死と隣り合わせの“戦闘”。
マイレナは、だんだんと戦いづらくなってきた。
マイレナは“勝負”は好きだが、“戦闘”は嫌いだ。・・・こんなこと、リーシアには言えない。
リーシアがそれを知ったら、絶対咎めてくるだろう。だから、言えない。
もっとも、このマイレナの性格を、すでに知っているかもしれないけど——
エージェは意外なことに、強かった。魔法使いの名は伊達ではない。
風巻呪文_バギ_ 、 火波呪文_ギラ_ 、そして時々、 火玉呪文_メラ_ 。これが最も脅威だった。
エージェの 火玉呪文_メラ_ はあと少しでその一段階上の 火球呪文_メラミ_ へと進化しそうな状態だった。
リーシアの回復が間に合わない。マイレナが喰らえばマイレナの治療をする、
だがその間にリーシアに飛んできたら自分自身に回復する——攻撃の暇がない。
マイレナもマイレナで、戦いの動きが鈍くなりつつあるし、第一近付こうとするとまた魔法が飛んでくる。
(だめだ、これじゃキリがない!)
リーシアが舌打ちした。自分の魔力にも限界がある。
どうにかして、この状況を変えたい。だが、どうやっ——
ごうっ・・・!
「「・・・っしまった!」」
マイレナとリーシアが、同時に叫んだ。
エージェの放った 火波呪文_ギラ_ が、二人の周りを囲んだ。
二人は消耗しかかっていた。普段物理的な戦いを主としていたため、魔法戦は得意ではなかった。
リーシアが回復呪文を連発するのは滅多にない。魔法による精神的な疲れが襲い始めていた。
じりじりと間合いを詰めてくるかのような火の波、このままでは、やられる——
「は・・・はははっ」エージェが高笑いする。「意外ですね、何とも他愛ない! どうします、人間?」
「何がだっ」マイレナが屈辱に顔を歪めながら返答する。
「命乞いさえすれば、私の生贄となるだけにとどめてあげられますよ?」
「っ冗談じゃないっ! 誰がするかぁ、あんたなんかにぃっ・・・うつっ」
飛んできた火の粉に、マイレナは呻く。もう、間近だ。炎に焼かれる。・・・焼かれ——
「 ヒャダルコ 」
焦りの色が見えた二人めがけて、何かの呪文が唱えられた。
熱風の波の中を、涼風が突き抜け、刹那氷の塊が生じる!
「なっ、 氷刃呪文_ヒャダルコ_ !?」
リーシアの声が上ずった。「一体誰が」
炎の波が、そのままの形を残して凍っていた。しかし、数秒ほどすると、音もなくすべてが崩れ散る。
「え・・・うそ。・・・助かった、の・・・?」
マイレナが唖然とした。リーシアですら驚きを隠せない。
だが、最も驚愕の表情となっていたのは、エージェだ。
「ま、まさか・・・炎に、氷が勝るなど・・・誰がっ!」
「あたしだよ、生け贄喰らいの魔法使いさん」
喚くエージェの前に立ったのは、——レイサだった。
「レイサ・・・」
マイレナが驚き、リーシアがにやっと笑う。そして、マイレナの治療をした。再び、ありがたみの感じられない礼。
エージェは歯ぎしりする。
「レイサ・・・裏切りましたね・・・!?」
「もともとあたしは不忠義者です。——これからは、あんたの言いなりにはならない。・・・あたしの意思で動く!」
自分の魔力で、ビュラを傷つけた過去があること。それをエージェに知られた時、戦慄を覚えた。
今更バラされたくない。知られたら、おしまいだ。
せっかく、一人の“踊り子”となれたのに、また“魔法使い”として恐れられたくない。
・・・そんな気持ちが、自分をエージェに従えさせた。
もし住民が旅人を気絶させることができなかったら、自分の出番。偽物の武器防具を売りつける。
生け贄の“儀式”がうまく進むよう、陰で手伝う。
だが、これはあの日と同じだった。ビュラの言うとおりだった。
表だろうが裏だろうが、自分のせいで人は傷ついてゆく。
・・・どうして気づかなかったんだろう。繰り返したくない。そう、思い続けていたのに。
・・・だが、いや、だから。
この人たちのような、強い人がいてくれるのなら、あたしは戦える。
昔に封じた自分の魔力を引き出せる!
「小生意気な・・・! 喰らうがいい、私の魔法は辛いのですよ!?」
エージェが放ったのは、 火玉呪文_メラ_ 。レイサは手を素早く合わせ、早口で何かを呟く。
「マホカンタ・・・!」
レイサに向かった炎の球は、彼女の目と鼻の先ではじかれ、さらにそっくりそのまま、エージェへ向けて放たれる!
「——う、あああっ!?」
「・・・みたかしらね。これがあたしの、 魔境呪文_マホカンタ_ よ」
「凄い」リーシアが息をのむ。
マイレナは剣を握りしめ、戸惑った。
今、私は、どんな行動をとればいい?今走れば、弱ったエージェにとどめをさせる。
・・・だが、できない。マイレナに、何かの命を奪うことはできない。それがたとえ、魔物であっても——
“愚か者よ”
不意に、そんな声がした。全員の動きが、一瞬にして停止した。
“やはり貴様は、余が必要とするものではない”
それは、エージェに向かって、放たれた言葉。エージェが一人、震えだす。
そして、その彼に向かった最後の言葉は、一言。
“消えろ”
———————ガシャァァァァアン!!
耳をつんざき、大きくとどろいた 雷_いかずち_ の音。
エージェに向かったものなのに、悲鳴すら聞こえなかった。
「っ!」
「な、何だ!?」
それは、地を切り裂き、揺るがせた。立つことさえ困難となり、三人は、いや、町中の人々が座り込む。
そして、その揺れは、まるで最初から何もなかったかのように潔く止まった。
だが、“何か”があったのは、町の雰囲気が語る。
静かすぎた。あたりは、やけに。
——【 Ⅰ 】完結。