二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエスト—Original—  漆黒の姫騎士  ( No.48 )
日時: 2011/01/26 21:56
名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: FjkXaC4l)

 降り立ったいなや、若者は両手をパン、と顔の前で合わせ、早口に何かを呟いた。
 リーシアには『真空波』と聞こえた。聞こえたとおりだった。
若者の周りの空気が変わる。真空状態になった風が刃となり、魔物たちを一気に切り刻む。
「うっは。大胆だね、盗賊のくせに」
 マイレナがいつの間にか、そこまで来ていた。どうやらマイレナもまた、若者を一目で盗賊と察したらしい。
「ああ、マイ。そっちはどうだ?」
「うん。言おうとしてた。まず大胆男は 真空波_それ_ が使えるからいいとしてさ、」
「・・・大胆男、はやめてくれ。俺はティルスだ」
 答えたのはリーシアではなく、若者——ティルスだった。
「ん、ティルスね。私はマイレナ、よろしく——で、リーシャ、あいつら、さっきの風の奴は結構効いてたんだけど、
呪文がほとんど通用しないんだっ。レイサの 氷刃呪文_ヒャダルコ_ 効かないし、ましてや
私の 風巻呪文_バギ_ なんてダメダメだっ」
「そうか・・・だけど、こいつら片っ端から倒してもキリがなさそうだな」
「あれ、見てみな」
 ティルスだ。指差す先をたどる。そしてマイレナとリーシア、同時に顔をしかめた。
 魔物がまた降り立ってくる。要するに、次々と現れているのだ。
「これってさぁ・・・アインテルスで倒した魔物と関係あんのかなぁ」
「ん? ・・・恨みを買ったってこと? 人気者になったらしいな」
 リーシアはちょっとした皮肉を言い、・・・そこではっと気づく。
「・・・マイ、それなら火炎系統は? 確かレイサが使えたはずだろ」
「え? 火玉呪文_メラ_ ? ・・・い、一応効いてるけど、それじゃ一体ずつしか——え、まさか、
空爆呪文_イオ_ でも使うつ——」
 マイレナのその後の言葉を一切無視して、リーシアは目を閉じた。背筋を立て、右足をわずかに引く。
両手を胸の前で組み、人差し指と中指だけを立てて交差させる。

「——ライデイン」

 リーシアは静かに、それだけ言った。マイレナが驚き、首をかしげる。
ティルスもまた驚いたが、マイレナとは違う、困惑したような表情だ。
 暗雲を裂き、空が光る。白く神々しい雷が、まっすぐ魔物たちの 咢_あぎと_ に突き刺さる!
耳をつんざく轟音と、目を開けていられないほどのまぶしい光に、リーシアを除く外にいた三人は
一瞬だけ気を失いかけたほどだった。

 ・・・それでも三人が目を開けると、なんとそこには、魔物の姿はどこにもなかったのである。

 一同唖然とし、一番最初に動いたのはレイサだった。 ぱちぱちぱち! と盛大に拍手する。
「すごいよリーシア! 何だったの今の!」
 つられて、無事だと悟り外へ出始めた住民にもそれが伝わり、町中拍手の嵐となる。
リーシアは少しだけ肩をすくめたが、自分を訝しげに見るティルスと視線が重なり、目をしばたたかせる。
「・・・何?」
「あんた・・・どこかの王族の者なのか?」
 リーシアの目の色が変わる。すぐに反応できなかった。
「・・・何で? ・・・そんなわけ、ないじゃない・・・っ」
 なんでそうなるんだよ、と呟く。ティルスはそれに答えた。
「・・・今の。 雷光呪文_ライデイン_ だろう・・・? それを使えるのは、この世に立った二人しかいない。
・・・そのうち一人は王族の者だって聞いたからな。そうじゃないかって思っただけだ」
「・・・・・・・・・・・・。———えっ?」
 何だ、そういうことか——そう言おうとして、ふっと話の内容を確認しなおす。[たった二人だけ]?
「・・・ふ・・・二人・・・!? 王、族・・・っ!?」
 リーシアは絶句した。しまった、と思った。同時に——寒気を覚える。

笑顔で手をたたき続ける群衆の中で、違った複雑な表情をした二人、
そして、遠くから群衆に紛れて同じような表情をした者が、一人だけいた・・・。






        Chess) 次回、遂にリーシアの秘密その一が明らかに。予告。宣伝。ほぼネタバレ。