二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエスト—Original—  漆黒の姫騎士  ( No.53 )
日時: 2011/01/27 21:36
名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: FjkXaC4l)

 握り続けていた拳の力が、ふっ、と弱まった。
 リーシアは——真のヴェルシーナという名のマレイヴァの姫は、目を閉じた。
知られている以上、もう仕方がない。
「・・・よく、分かったわね。わたしがここに来る前から、予想はついていたんでしょう?」
 ずっと続けていたぶっきらぼうな話し方を止める。これが、本当の、正体。
「——あなたの身近な人物に聞いた・・・それだけだ。いや、実際には、何も知らないまま教えてくれた」
 一瞬またマイレナの顔が頭に浮かぶ。が、そんなはずはないと、すぐに思い直した。
いくら雰囲気が似ているといえど、目の前の男とマイレナが関係あるはずがなかった。
「・・・それで? 目障りなこのわたしを、始末しに来た・・・ってわけ?」
「まさか。今は秘めているとはいえ、姫騎士とまで呼ばれた貴女をこの場で殺めるのは困難だ。
・・・ただ、覚えておくといい。魔族には、すでに貴女が生き永らえていることは知られていること、
・・・そして、他の“継承者”の命をも狙っていることを」
「な・・・ん、だって・・・!?」
 今更になって、自分の行動を悔やんだ。自分の意思で動いたはずが、ただの操り人形でしかなかったのだ。
 フェイクスは無言で踵を返し、宿の外へ出た。追おうとは思わなかった。
 マレイヴァ崩壊にかかわっていたというフェイクス。今回の魔物は、彼の命令のもと動いたのだろう。
だとしたら、相当の幹部、そして、恐ろしく頭の切れる男なのだ、とリーシアは思った。

 開け放しの扉から、潮風が流れ込む。髪をなびかせ、いつまでもたたずむ娘の瞳には、
滅多にない恐怖の色が写っていた・・・。



 マイレナとレイサの二人は、海の匂いを精いっぱいに吸い込み、吐き出す。
潮風が体いっぱいに駆け巡るのを感じ、マイレナは満面の笑みを浮かべる。
「海、綺麗だねぇ。目に新鮮」
「てぇか、マイレナの目だって青色じゃん」
「自分で自分の目の色が見えるかい」
 マイレナはレイサのあご下に手の甲をぶつけ、ツッコミのしぐさをした。
「・・・目に新鮮て、マイレナ、もしかして村育ち?」
「そだよ。——すごい山奥。名前言っても、知らない方に今日の夕食、紅茶つき」
「賭けません。・・・で、どんな?」
「ちえ。・・・フィルタス、っていう」
「・・・フィルタス?」
 レイサはうーんとうなり、知らないや、と一言。
「・・・でも、どうしてそんな山奥に住んでいたのに、旅なんか」
 言った後に、“そんな山奥”とは失礼だったかな、とレイサは思ったが、
マイレナは気にした様子もなく、答えた。

「・・・みんな、いなくなったから」

「・・・えっ」
 珍しい、寂しげな表情を見せたマイレナに、レイサはまずいこと聞いたかな、と思ったが、
やはり気にした様子もなくマイレナは続ける。
 静かな口調で、マイレナは語った。村に住んでいた頃のこと。偶然のリーシアとの出会い。
そして・・・村人の消失。
すべてを聞き終え、レイサは物も言えない。
「村は今でも存在すると思う。だけど・・・村のみんなは、どこにもいない・・・
生きているのか、死んじゃっているのかさえ、分からない」
「・・・・・・・・・」
 レイサの表情がゆがみ、それに気付いたマイレナがあわてて言う。
「ご、ごめん、雰囲気沈める気はなかったんだ」
「え? いいよ・・・って、なんでマイレナが誤ってあたしが許すの? 逆じゃ・・・ご、ごめんマイレナ」
「えぇえ? ちょ、何であやま——」
 そこまで行って、二人の視線がぶつかる。先に表情を緩めたのはマイレナだ。
「あっ、あははははっ! 私たち、何あわててんだろっ!」
「本当本当! あ、だめ、あたし、笑いが止まんないし」
 妙な不謹慎さを感じながらも、二人は大笑いに笑った。ひぃひぃ言って、レイサなど涙まで流している。
どうやら、マイレナの話でこらえていた涙が一気に流れ出たらしい。
 ひとしきり笑った後、マイレナが笑いの後遺症を残しながら、そういえば、といった。
「私にもさぁ、こうやって一緒に思いっきり笑えるような人がいたんだよ」
「そ、そうなの?」
「うん。三人ね。・・・それがさぁ、そのうちの一人、名前がフィルタスそっくりでさ。
よくフィルタスフィルタスって呼んでは叱られた」
「へぇ、どんな名前?」
 レイサがくすくす笑いながら聞く——


 マイレナはその時、確かにそう言った。

 何も知らない十七歳の娘の唇は、確かに五文字の名を発した——





 フェイクス、と。