二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエスト—Original— 漆黒の姫騎士 ( No.57 )
- 日時: 2011/01/29 21:33
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: FjkXaC4l)
フィルタスの村は、世界地図からも除外されるほどの山奥の村である。
そして、マイレナが薬草を取りに行くときは、必ず“水の門”を通る。
“炎の門”は、今この村に生きているものでそこを通った者が一人もいない。
マイレナはぶらぶらと歩きながら、目ざとく自分の親友たちを見つけた。
「あっ、マイレナ、遅いよ」
三人いる。二人は少年、一人は少女。今声をかけてきたのは少年の一人だ。
「おはよう、ティス! どうしたの、朝から」
「は?」
ティスと呼ばれた少年が素っ頓狂な声を出す。隣の少年は吹き出した。
「笑うなフィルタスがっ」
「フェイクスだ、わざというな」
フェイクスは—そう、あのリーシアの力を試した彼の三年前である—マイレナの頭を小突く。
マイレナの反応は「イテ」だった。
そして少女が最終的に答えた。
「明日の儀式の準備よ。聞いてるでしょ?」
「儀式の巫女。ナヴィーが務めるってことは知ってる、・・・よね?」
ティスが、少女ナヴィ(本名はナヴィだが、読みはほとんどナヴィーだ)の肩をぽんぽん、と叩く。
儀式の巫女。百年に一度行われる、炎の門と水の門を同時に開け放し、炎と水の神の加護を受ける儀式。
そして、神に 希う_こいねがう_ は、村の若い少女。それが、儀式の巫女である。
マイレナは絶句、だがその後一言、
「・・・・・・・忘れてた・・・」
何とも情けない言葉である。
マイレナぐっ、と拳を前に突き出すと、
「ごめん、三十分待って。ママに薬草とって来いって言われた。すぐ戻るっ」
三十分をすぐというのかどうかが微妙なところではあるが、それだけ言うとマイレナは急いで水の門を出る。
「・・・まったく」
フェイクスが笑う。闇色を成した髪が揺れた。
フィルタスの村の住民は、髪と瞳の色が少々変わっている。
マイレナは蒼色、フェイクスは闇色、ティスは太陽(糖蜜)色、ナヴィは藍色。
ティスだけ性格通り(?)明るい色合いを成していた。
村の外へ飛び出した蒼い髪が、だんだん見えなくなっていく。
フィルタスの周辺の魔物は大した強さではない。なぜなら、フィルタスが明るい村だからである。
魔物は人間の絶望を食らって強くなる。
つまり、絶望のないその村の周辺の魔物は、マイレナ一人でもあっさり打ち倒せるのである。
——いや、そもそもマイレナの場合、村娘にかかわらず女にしては人並み外れた力の持ち主であったため、
その辺の魔物にはある意味恐れられていたのだ。
そんなわけで、村に住む年上の娘たちが「外の世界に出るなんて、信じらんない!」なんて言っているその地で、
大きな面かまして堂々歩いているのがマイレナなのであるが、今日はそんな暇もない。
(まーまーまーまーずーい〜〜っ。わたしナヴィの引率係だったんだ、
くそうあのオバぁこんな日に薬草なぞ取りに行かせおってぇ)
いつもの約二倍のスピードで(つまり走って)薬草園のところまで行った。
そして数もろくに数えず、大急ぎで積み、しかし慌てているマイレナはうまく採ることもままならない。
それでも何とか摘み終わって立ち上がると、不幸にも足が痺れて動けない。
(うぁぁぁぁ〜〜。もーダメだぁっ)
少々観念しかけた時。
「ひっ!」
すぐ足元に、大きな火が飛んでくる。しかし今度は不幸中の幸い、薬草園に火がつくことはなかった。
「なっ、何・・・!?」
マイレナが顔を上げる。その先には、いつの間にいたのだろう、二人の人間が立っていた。
マイレナの方を見てはいない。どうやらマイレナに向かって投げられたものではないらしい。
二人の雰囲気から、戦っている。その時どちらかが打ったものが外れただけなのだろう。
(・・・でも、どうやって・・・魔法じゃあるまいし)
フィルタスに魔法は存在していなかった。
だから、戦う二人のうち、男の指から放たれたあの炎の球には度肝を抜かれる。
(危な——)
しかし、それを二人のうち、女——黒髪の、マイレナと同年齢くらいの小柄な少女がかわした。
しかし、かわされてもなお存在する炎の浜は、再びマイレナの足元をかすめる。足の痺れは、消えていた。
(まずい、このままじゃ薬草園が)
こらえきれずに、マイレナは叫んだ。
「それ以上、戦うなぁ——ッ!」・・・と。