二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエスト—Original—  漆黒の姫騎士  ( No.59 )
日時: 2011/01/30 13:24
名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: FjkXaC4l)

 別の方向から突然聞こえた声に、マイレナに背を向ける格好だった男の方がびくりとした。
少女はマイレナの存在に気付いていたのか、声には反応しない。だが、驚いたことでできた男の隙を見逃さなかった。
少女の右手のナイフが閃き、男の胸に吸い込まれる。
(っ——!)
 どすり、と音がした。ナイフが刺さり、男は倒れる。ぴくぴくと動く様子を、少女は冷ややかな目で見ていた。
「な・・・何、やってんだ、あなたは・・・っ!?」
 少女がくるりと顔を向けた瞬間、マイレナの体内を悪寒が走った。
 私が止めたから、叫んだから、あの人は刺された。・・・そういうことに、なってしまうのか・・・?
「何って」
 少女が口を開いた。一瞬何のことかと思い、さっきの質問の答えであることを悟った。
「・・・そうね。あんたにとってこれは、わたしがこの男を殺しただけにしか見えないんだろ?」
 マイレナは口をつぐみ、どうしていいか分からず困った。
「・・・まぁ、そうかもしれない。でも、この男は私の仇。そして今も」
 少女は一呼吸分おいて、言った。
「・・・殺されかけた」
「——っ」
 マイレナは絶句した。同時に、訳が分からなくなって、なぜかゆっくりと少女に近付く。怖いとは感じなかった。
「? ——この男を助けるために、わたしを殺すつもりなのか?」
 マイレナの腰にある、護身用のナイフを見て、言う。だが、マイレナは答えた。否定の言葉で。
「違う。違う・・・けど・・・」

 その刹那。
 倒れていた男の手が突如上がった。
 指先がまっすぐマイレナを捕らえ、火球が放たれる!
「っ!」
 マイレナが身を引くより早く、少女はマイレナを突き飛ばした。その、強いこと。
村の並の男たちにも負けず劣らずの戦力を見せるマイレナでさえ、少女の強さにぞくりとした。
この少女は、恐ろしく強い。それがマイレナにはよく分かった。
 実際、突き飛ばしたその微妙な姿勢から、少女は持ち上げられた男の腕を腰に吊った剣で抜き放ち様に叩き切った。
マイレナは吐き気を覚える。こんな激しい戦いを、見たことはなかった。
「やみ・・ひか・・・けいしょう・・」
 男がとぎれとぎれに呻く。
「呪、わ・・れよ・・・、いつか・・・は、その、身に、わざわ・・・」

 男の息は、そこで途絶えた。
 だんだんと身体が薄れゆき、パッ、と散る。
「・・・やはり魔物か」
 死した後に消えたことから、少女はそう呟いた。だが、マイレナにはなぜその結論に達するかはわからなかった。
 マイレナはがくがくと震える足をおさえ、おそるおそる少女を見た。お礼を言いたくても言えない。
なぜならこの人は、自分を助けるために、人を殺したのだから。
 ・・・少女はそう思っていないかもしれない。ただ自分の目的を果たしただけなのかもしれない。
だが、マイレナは、助けてもらえたのだと、そう思いたかった。
 どうすればいいものか悩み、目をそらしかけるマイレナに、少女は口を開いて尋ねる。
「驚いた。この土地に、人が住んでいるのか」
「えっ? あ、あぁ・・・」
 警戒しながら、マイレナは答えた。「村がある。・・・私の名前は、マイレナ、村フィルタスの生まれ」

「そう。——わたしはリーシア、また会うことがあればよろしく」

「あっ・・・ちょ、ちょっと!」
 マイレナは呼び止め、ほとんど踵を返していたリーシアは「何?」と答える。
「・・・来ないの? あなた旅人なら、泊まって行ったりしないのか」
 リーシアはそんなマイレナに、ふっ、と呆れ顔を見せた。
「血生臭いわたしを、あんたみたいな村人が歓迎してくれるとも思えない。
第一、あんたはわたしを警戒している。居心地が悪そうだ」
 悪気があって言ったわけではないだろう。しかし、その言葉はマイレナに大きくのしかかった。
 マイレナは目を閉じ、立膝をついた。右ひざだけは立て、両手を合わせて祈る。
先ほど死んだ、あの男に向かって。
「・・・・・・何、してるんだ?」
 いきなりひざまずかれたのかと思いかけて驚いたリーシアが呟く。マイレナは半分目を開けた。
「祈り。生きているときが善であれ悪であれ、死んでしまった人はどちらでもないでしょ」
「・・・・・・・・・」
 答えはなかった。あきれたような溜め息だけだった。
マイレナが立ち上がった時、草原にいた人間は一人だけだった。