二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエスト—Original—  漆黒の姫騎士  ( No.70 )
日時: 2011/09/10 07:33
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: Xn5/gwB3)

 儀式は始まった。テントのカーテンが開き、盲目の巫女はゆっくりと歩き出す。
人々が祈る列と列の間を進み、巫女は使いと共に村の中心部へ向かう。
 使い——マイレナは、巫女ナヴィの肩にポン、と触れた。中心部だよ、と合図したのだ。
 ナヴィがマイレナだけに分かるように頷き、両手をゆっくり天に掲げた。マイレナはテントに一人戻る。
「——精霊よ。すべての自然を司る気高き魂よ。我は百の年に 一度_ひとたび_ の、
そなたの巫女を勤めし者。我、儀式に基づき、炎と水の加護をこの地に求める」
 静かな、十四の少女とは思えない声色でナヴィは祈りを捧げた。
炎の門に最も近いフェイクスが、ゆっくりと扉を開く。
百年ぶりに。

 ナヴィの祈りの言葉を、フェイクスは無言のままほぼ聞き流していた。何故だろうか——何か、気だるい。
何か、嫌な予感が——


「—————儀式か」


「っ!?」
 急に、自分の後ろから声がして、フェイクスは振り返った。
そこには百歳を超えているのではないかと思われる老人が立っていたのだ。
ずっと閉ざされていたはずの、炎の門の向こうから。
(な・・・なんだ、この老人はっ・・・)
 村人ではなかった。フェイクスは誰にも気付かれないように、鋭く言い放つ。
「・・・誰だ。今は立入禁止だ。・・・長に用があるなら、しばらく待ってもらう」
 妙な戦慄を覚えた。わざとつっけんどんに話す。だが、老人は、フェイクスを見上げてにやりと笑う。
「なんとご挨拶な事よ。強くなりたいと求めたお前に、 火炎呪文_メラミ_ を授けたのは誰だったかの」
「なっ・・・」
 その瞬間、フェイクスは思い出した。あの忌々しい国。
兵士として働かされ、そして——耐え切れなくなって脱走したあの国。
そこの、老魔法使いだった。
(な・・・何故、ここが!?)
「久しいの、少年。して、何ゆえこんな村に?」
 関係ないだろう・・・! 叫びたい。帰ってくれと、大声で言いたかった。
だが、この男がいることを、皆に知られたくはない・・・
「——まぁ良い。ところで少年。今一度、わが国に戻る気はないかね?」
「なっ」
 フェイクスは短く驚愕する。
「否・・・あの国より、もっと人類が強くなれる場所がある・・・
強くなりたいと、それほどまでに思うお前さんなら、きっと歓迎してくださろうぞ」
「断る」
 ここで承諾するわけには行かなかった。村人を巻き込むわけには、そして、これ以上の悪夢を見ないために・・・
「本当に断るのか?」
「しつこいっ・・・いいから、出て行け!」
 その瞬間、ニタニタと笑っていた老人の顔から、ふっと笑みが消える。
「仕方ない」老人は高々と右手を上げる。「分からせてやろう」
「な・・・何をする気だっ」
「見ておくが良い、己の間違いを!」



             ばんっ!!



 フェイクスが目を見張った。
・・・そこにいたはずのナヴィが、音と共に——消えていた。
「ナヴィ!?」



      ばんっ!     ばんっ!



 続いて、祈っていた村人たちが、次々と消えてゆく。人々のざわめき、悲鳴。
「やめろ、元に戻せっ!」
 老人は聞き入れない。ばん・・・ばん・・・音は止まらない。

 だが。

 音が消えた時、人々もまた、消えていた。
 誰もいない。老人と、フェイクスだけ。

「可哀想なことよ。お前が首を縦に振らないために、住民はどこかに消えてしまった・・・」
「きっ・・・・・貴様っ・・・・・!」
 フェイクスがいきり立ったと同時、老人の手から巨大な炎が生じ、フェイクスに向かって放たれる!
「———————————ッ!!」
 少々の魔力を得たとはいえ、完全ではないフェイクスの身体は、炎に焼かれ、血を流した。
痛みのせいで力が入らない。ピクリとも動けない自分に、改めて、あぁ、俺は弱いんだと、実感する。

「どうだね? これでも、来ないかね」

 強ければ、この男に勝てるだろうか。
いつか、復讐することが出来るのか——?

 動かし辛い唇で、フェイクスは細く答える。






「・・・・・・・わ・・・かっ・・・・・・・・・・た」






 ・・・その、四文字を。