二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- ■10 「Desiderate」 ( No.22 )
- 日時: 2011/03/17 09:36
- 名前: 朱音 ◆c9cgF1BWc. (ID: JYHezvC8)
- 参照: ケフカちゃーん ケフカーちゃーん 細すぎーてもやーしーみーたーい
■10 「Desiderate」
バッツとジタンが顔を見合わせる。「知ってるか?」というバッツの問いにジタンは無言で首を振り、二人は同時にリオの方を向いた。対してリオは驚いたような顔をしている。彼は複雑な表情で後頭部を掻き、
「えっと……近所にトラビアっていうトコあんねんけど……知らん?」
茶髪と金髪が同時に揺れる。リオはがっくりと肩を落とし、
「そか……あんまし知名度ないねんなぁ……」
と、絶望に満ちた、という感じの声を搾り出すようにして出した。すると、体育座りのバッツが急に立ち上がり、
「なぁ、お前は今からどこに行くんだ?」
まるで今までの会話を全てぶった切った様な明るい声で聞いた。膝に顔をうずめてめそめそといじけモードに入っていたリオと、彼の話が長すぎて眠りかけていたジタンが同時に顔を上げる。
「どこ、って言われても……。ここ来たん最近やからよう分からんし……俺戦うんも苦手やし……」
言いながら、リオは大理石のような地面を人差し指でぐりぐりと押す。どうやら完全ないじけモードのようだ。
かつんかつんと靴をならし、リオに近寄ったバッツは、彼の肩を勢いよく叩いた。ばふんっ! という豪快な音が響き、同時にリオが顔を跳ね上げる。
「痛いっ! 何すんねんお前!!」
「じゃあさ、俺たちと一緒に行こうぜ」
にぃーっと口を開き、バッツは明るく笑った。ジタンもリオに近寄る。
「…………へ?」
間の抜けるような声を出し、リオは叩かれた肩をさすりながら立ち上がる。呆然とした表情の彼に、ジタンがアイコンタクトする。
「俺たちさ、クリスタルってのを探してるんだ。大勢の方が見つけやすいだろうし、敵が来たら守ってやるから、一緒に行こうぜ!」
クリスタル。
その言葉を聞いたとき、リオの目が一瞬鋭くなった。だが、0,5秒にも満たなかったその刹那の表情は二人には目視できなかったのだろう。バッツはそのまま話を続け、ジタンも警戒心を解いたかのように笑っている。
——こいつらに、ついてけばええんか。世界消そ思てるくせに、よう言うわ。
リオは燃え滾る感情とは裏腹に、呆気に取られたような表情で話を進める。その顔には不自然さなど欠片もなく、二人が完全に騙されているのが見て取れた。
彼はさっきケフカに騙されたことに気づいていない。そして、バッツとジタンはリオの本心に気づかない。交錯したそれぞれの思考が重なり合ったその瞬間と言えるだろう。これで、物語はケフカの思惑通りに進んでいく。
「じゃ、行こうぜ」
バッツがマントを翻し、「4つの心」を鼻歌で口ずさみながら闇の世界を進む。ジタンもそれに続き、リオは慌しく後を追う。
——後は、クリスタル見つけて壊すだけや。
リオは自身の鼓動が早くなるのを感じていた。彼らを上手く騙すことは出来ても、「神の欠片」であるクリスタルを破壊することが出来るのか、正直分からなかったからだ。
更に、コスモス軍の中に入れば、いつ自分の素性がばれるか分からない。相手は曲りなりにも神に選ばれた戦士だ。目の前のこいつ——ジタンより疑り深く、強い存在がいないわけがないのだから。
素性がばれれば即刻始末だろう。そんなものは平和主義のリオでも重々承知だったし、ゴルベーザからも念を押された。貴様のやろうとしていることはスパイ行為。発覚すれば命の保障は無いと。
——それでも、それでも。
リオは危険を承知でこの任務を受け入れた。奴らの探しているクリスタルを破壊し、世界に平和をもたらすことを望んだ。
——もう、無くなってほしくないねん。
幾度となく見てきた戦争の風景が、リオの頭をよぎる。家族に会えずに戦場で散った兵士の涙が、恋人を戦争で失った女性の苦しみが、色鮮やかにその目蓋へ投影された。
——こいつらにだって、死んだら悲しむ奴がおる。だからこの方法が一番ええんや。
リオは顔を上げ、前を行く二人の背中を追った。