二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

#1『崩れた岩』 ( No.8 )
日時: 2011/01/11 02:06
名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: LXRMec4z)

「新入り?」
 エントランスフロアのベンチで、不味いと噂の『失恋フレーバー』の缶のプルトップ式の蓋を開封しながら
銀髪のヘッドフォンを着けた少年は茶髪のポニーテールの少女に訊き返した。
「聞いてないの?この前ツバキさんが言ってたじゃない」
ポニーテールの少女、アイは腰に手を当てて言う。
「あー、聞いてなかったかも。で、今日来るの?」
「うん。で、今日の任務私達がその人の面倒見るらしいわよ」
「ふーん・・・」
缶を口元に持っていき、美味しそうに不味いと絶賛のジュースをあおる。
「・・・アンタ、それ良く飲めるわね」
「だって美味いじゃん」
アイは、頭に手を当てると溜め息をついた。
「味覚を疑うわ・・・アンタってホントおかしな奴よね、フウガ」
「?どこがだよ?」
「全部よ」
寝る時と風呂に入る時以外はヘッドフォンを外さないらしいフウガは、不思議そうにアイを見た。





 フェンリル極東支部、通称『アナグラ』。
今や世界中に跋扈している『アラガミ』。
そして『アラガミ』と戦う者達『ゴッドイーター』。彼らの住処。
各地のアラガミの発生や襲撃の報はここに寄せられ、やがてそれらは『任務』としてゴッドイーター・・・
『神機使い』達に知らせられ、彼らは任務に赴く。
一昔、丁度二千年度初頭くらいの価値観でいえば豪勢ではない、寧ろ普通な内装ではあるが、
この時代では少なくとも最高級のものばかりが揃った、神機使い及びそれに携わる者ではない一般市民から見たらあこがれの場所。
但し、ここに住む者はそれ相応の責任も負わなければならない。
言わば人類最後の砦。アナグラとはそんな場所である。
今日もエントランスフロア、出撃ゲートの鉄の床を踏む音が響き渡る。
アナグラに、定休日はない。





「今日から新しく第一部隊に配属になった新人を紹介する」
「神吹ユウジです。神機は旧型、ロングブレード系統です。よろしくお願いします」
 ツバキ教練担当が凛々しい声で言ったのに倣い、『新人』のユウジは自らの名前と扱う神機を告げた。
「本来新人神機使いの任務にはリンドウ・・・雨宮大尉が同行する筈なんだが、
 雨宮大尉は今別の任務に赴いている。
 よってアイ、エリナ、フウガ。お前達三人が同行しろ。わかったな?」
「わかりました」
「了解です」
「うーい」
「フウガ!真面目にしろ!」
「はい・・・」
かつて遠距離神機使いとして並ぶ者無し、と恐れられたツバキの一喝を喰らい、軽くしょぼくれるフウガ。
「ところで、ソーマ隊長とコウタ先輩とサクヤさんは?」
「あいつらも別の任務だ。リンドウと一緒にな」
「あのメンバーを駆り出すとか、ついに『ノヴァ』でも出たか?」
「『ノヴァ』なら、出た瞬間に地球が終わると思います」
エリナが、さらっと素早くツッコむ。
 この『アナグラ』には、少しユーモアが欠けているんじゃないかと最近つくづく思うフウガであった。
そしてそんなフウガを見て、大丈夫かこの人、と思う新人、神吹ユウジであった。





「コクーンメイデン、か」
 今や寂しくそびえる岩石の巨塊に成り果てた教会の上、神機を肩に担いだフウガは言った。
その視線の先、教会の周囲には十、二十程の『コクーンメイデン』。
 蛹のような形状に、目を伏せた人間のような顔の小型種。
大概は地面から生える形で生息しており、地上を移動する姿は今のところ見られた記録は無い。
最も敵は未だ謎の多い『アラガミ』なので、油断はできないが・・・。
「多少数は多いけど、余裕でしょ」
腰元に神機を構えたアイの発言も、あながち間違いではない。
遠距離からのレーザー攻撃が主だが、ホーミング弾を放ってきたり、接近すれば胸部から幾つもの黒い槍を突き出し、捕食対象を穿つ。
しかしそのどの攻撃も発動前に多少の時間を有するので、
その前に接近戦による斬撃か、遠距離からの射撃の一斉放射で仕留めればさほど強敵ではない。
「『堕天種』は・・・紛れてないみたいですね」
 エリナは、手をかざしざっと見渡す。
「まだこっちにか気付いていないみたいです。すぐに奇襲をかけますか?」
「・・・そうね、そうしましょう」
 ユウジの提案に、アイは一考してから同意。
「あんた、ロングだったよね?」
「はい、旧型なので『インパルスエッジ』は使えませんが」
「・・・じゃあ、ここから見て左側の三匹頼むわ。
 アタシは正面の六匹。それ仕留め終わったらあんたの援護に回るから。
 ああいうタイプは少しでも早く数を減らした方が有利だから。
 エリナはここから・・・あいつ等高射程ホーミングも持ってるから状況に応じて移動しながらユウジの援護頼むわ」
 次々と的確な命令を下すアイに、さすが、とユウジは内心舌を巻く。
だがここで気にかかったのは、ここから見て右側の、残りの十一体。
「・・・で、フウガは」
そこでアイがフウガの方を向き、

「残りの全部、頼むわね」

 一見鬼畜な命令に、フウガはヘッドフォンを外しこちらに視線を向け一言。



「え?何か言った?ゴメン、音楽聴いてたから聞いてなかったわ」



 神機の影響で常人のそれよりも遥かに身体能力が発達した『神機使い』。
アイによるその鋭い蹴りを水月にモロに喰らい、痛みのあまりぶっ倒れ身悶えるフウガを見て
大丈夫かこの人・・・色んな意味で。と、思うユウジであった。