二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン〜大江戸イレブン!弐 ( No.31 )
日時: 2011/08/08 16:39
名前: ゆうちゃん (ID: 66DLVFTN)

『第二十話断章:正体』


「ちょっ、茂人っ!?おまっ、方向ちが……」
なれない空のたびを一時間ほど続けた茂人とヒロトはとある山中に降り立った。それも都とは全く違う方向の。
「都に行くんじゃなかったのか?」
凧から土の上に投げ脱されたヒロトは腰をさすりながら、茂人を見た。
彼は相変わらずの無表情で凧を小さくたたんでしまっていた。
「ここならいいだろう」
「……茂人?」
茂人はヒロトのほうへ向き直ると、しゃがみ、ヒロトと同じ目線の高さになった。
緑の瞳と目があった。なぜか激しい動悸がする。
そして、茂人はかぶっていた頭巾を取った。

ヒロトは思わず息を呑んだ。

……言葉が出てこない。





「……改めまして、お久しぶりです。グラン先輩」






不敵に笑った茂人の顔をヒロトは凝視した。
そして瞬間、まずい、とも思った。
気づいたら体が反射的に走り出していた。
本能が言っていた『逃げろ!殺される』と。
あの国は裏切り者を許しはしない。絶対に、許しはしない。

『気をつけろ、ヒロト。閣下はお前を許さないだろう……そして、私のことも』

彼女はどうなっただろう。———余計なことは考えないようにしよう、きっと彼女はもういない。いるわけがない。
自分は彼女の犠牲でここへ来た。


茂人はすぐに追いついてきた。
「———っ」
目の前は行き止まりだ。谷底でごうごうと水が音を立てている。
「俺は—————、まだ死ねない!」
ヒロトはすかさず、近くの木を拾うと茂人に向かった。
しかし、小枝が真剣にかなうはずがなかった。
小枝ははじかれ、くるくると谷底へ落ちていく……
茂人はヒロトののど元に刀を突きつけて言った。
「逃げること無いじゃないですか、先輩……俺はあなたを殺したりしません」
かちゃりと茂人は刀をしまった。
「じゃあ、なぜお前がここにいるんだ……ヒート」
ヒート、それは茂人の昔の名だった。
ヒロトの国では基本的に本名では呼ばれない。国民の情報全てが機密情報として扱われており、すこしでも国外にもらさないためだった。
ヒートはヒロト……グランの軍の後輩だった。
「先輩と同じ理由って、言ったらおかしいですか?」
こんどの笑みは微笑だった。
「別に、笑いはしないけど……」
ヒロトは呆然としていた。まだ動悸がしている。
「まぁ、嘘ですけど」
今度は茂人はにっと、笑った。
軍に入る前の懐かしい笑顔だった。
「俺は実際、若様の家来でも何でもありません。この国に来たのも、この国にいるさる法師の暗殺もくてきだったんですけどね」
「……気変わりしたのか」
「はっきり言うと、面倒になったんですけどね」
茂人はヒロトを起こすと背を向けて歩き出した。
「風丸様のご命令は都へいくことではありません。俺の暗殺する予定だった法師に会いに行くことです」
ヒロトは茂人の後についていった。気づかなかったのだが、近くには古びたお堂があった。
茂人が中を開けると、中央に結界の術式のようなものが書かれていた。
茂人は指を切って、自分の血をたらすと何かを唱えた。
すると茂人とヒロトは光に包まれ、気づいたときにはさっき入ったお堂とそっくりな建物の正面に立っていた。
茂人がゆっくりと段を上って、建物の戸を開けた。
ずいぶん古いのか、ぎしぎしと音を立てた。
中に入ると茂人は部屋の中央に座している人物に声をかけた。

「只今もどりました、法師様」

その人物は顔を上げ、ゆっくりと目を開いた。
銀の長い髪が揺れる。

「そろそろだと思っていた」



佐久間は茂人にそっとてを差し伸べた。