二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 少年陰陽師*双月恋妖絵巻* ( No.107 )
日時: 2011/11/29 21:38
名前: 勾菜 (ID: IlzFUJT4)

〜麗菜〜

ここは何処? 私は……誰なの…?
思い出せない、否、思い出したくないのだ。
私は、何か大切なことを忘れているはずなのに。
それはきっととっても大切なことだろう。
思い出せない。
自分の心の最奥が拒否する。
どうして…?


「……」
重たい瞼をゆっくりと開く。
だるい…そう思って細く息をはく。
「あ、目が覚めた?」
気だるげな瞳で声の主を見る。
「だれ…?」
「おぉ、目が覚めたのじゃな」
さらりとした衣擦れの音と共に黒髪の女が現れる。
「あなたは…」
「妾かえ?妾は珠櫻妃じゃ。そなたは珠櫻と呼ぶがいい」
「珠櫻?…わたしは、誰なの?」
頭に霞がかった感じがして、考えたくない。
いきなり現れた女に、警戒心すら抱けない。
「そうじゃ。そなたに名前を授けてなかったのう…」
そう言ってふっと妖艶な笑みを浮かべる。
「そなたは今から"櫻"じゃ」
「おう…?」
呟きながら立ち上がり、彼女に視線を合わせる。
彼女は笑みを浮かべ、櫻の額に手を当て呪文を唱えた。

キンと、音がして櫻の額には銀冠がはまっていた。
「これは?」
櫻が問うても、彼女は答えない。

ドクンと、心臓が脈打つ。
体中が熱い。何が起きているのか。
「ハッ…あっ…うぅ…」
立っていられなくてしゃがみ込む。

それからその場を静寂だけが支配する。

「見事な姿じゃ…のう、廉狼」
「そうですね…」
廉狼は同意しながら、にいっと口端を釣り上げる。

二人が見つめる先にある姿。
それは———
汗だくになってその場にくずおれた櫻。
櫻は荒い呼吸を繰り返す。
本来の黒髪とは似ても似つかぬ銀の髪。
黒い瞳とは対照的な真紅の瞳。
「あ…れ…?私、どうしてこの姿に…」
自身の銀髪を見て唖然とする。
「それがそなたの本来の姿じゃ。のう、櫻」
無言で珠櫻妃を見つめる。
「そなたを苦しめた人間に…復讐をしてやろうではないか」
櫻の脳裏に断片的な映像が流れ込む。
それは全て憎しみを感じさせるもの。

「いいわ…私の手でこの人間を殺す…」
真紅の瞳が冥く光った。
先程までとは別人のような雰囲気を醸し出す。

「ならば…緋月緤菜とその周りにいる者全て、殺してしまえ。…すべてとは言わん。まずは手傷を負わせてくるのじゃ。廉狼、お前もいけ」
「はっ」
「行ってくるわ、珠櫻」
傍にあった、太刀をつかみ櫻は立ち上がる。

廉狼に視線をむけて共にそこを飛び出していく。


その風を受けて、ろうそくの炎がゆらゆらと揺らめいた。