二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 少年陰陽師*双月恋妖絵巻* ( No.127 )
日時: 2012/01/18 22:04
名前: 翡翠 (ID: KGewSC17)

〜緤菜〜

待つ間、落ち着くことはなかったけど、それでも時間としては二十分と経たないうちに彼は戻ってきた。

現れた長身の神将に文字通り私は駆け寄った。

「紅蓮……」

無事なその姿を見て安堵した後、彼の左腕に担がれた昌浩の姿を確認して驚いた。
何かを言おうとしたが止め、紅蓮の言葉を待った。

「お前の姉があの場所に居て、昌浩を置いていった……」

説明は実に簡単なもので、もう少し詳しく話してもらいたかったけど、あの夢がやはり予知夢であったことはこれではっきりした。
 そして、どういう理由から無傷で眠ったままの昌浩をこちらへと送り返してきたのか、その真意は分からない。それでも、自分のせいで連れ去られた昌浩がこうして戻ってきたことにほっとした。

「……そう」

短く返事をして、あの場所に居たであろう麗菜のことを思う。
会いたい……櫻と名乗った人物ではなく、麗菜自身に会いたい。
強く強くそう思い懇願していた。

「緤菜……」

ふわりっ……
名を呼ばれたと、そう思った直後のこと。
全身を包まれるような温かい感覚と強い意志。
そんなものに、私は抱きすくめられていた。

「っ……!」

急に巡ってきた自分以外の者の熱に戸惑いながらもどうしてか振り払うことは出来なくて、ただ、紅蓮の言葉に耳を傾けていた。

「どうして、お前は頼らない? 弱音を吐き出そうとはせず、強がる」

問われた言葉が胸に突き刺さったような気がした。
心臓が跳ね、胸が痛くなる。だけど、答えないわけにはいかなかなくて、重い口をゆっくりと開き言葉を発した。

「……私達はずっと二人だけだった。どんなに辛いときも寂しいときも悲しいときも。頼れたのは互いだけで、信じられたのも互いだけだった。それは当たり前のことでそれで良いんだって思ってた……。此処に来る前までは」

一度言葉を区切り呼吸を整え、続ける。

「此処に来てから私達は忘れかけていた楽しいことや嬉しいことが沢山あった。安心することもあって……だけどそれらは勘を鈍らせ、人を弱くする。私達には必要のないこと、そう思ってたのに、こんなことになってどうして良いのか分からなくて。誰かに頼ってしまったらもっと弱くなって深みにはまって動けなくなりそうで……」

言っているうちに、今まで我慢していた思いが涙となって瞳から溢れ出していた。

「もう、いい。それ以上喋るな」

紅蓮の言葉と包み込んでくれる腕の温もりに完全に私は我慢の糸が切れてしまった。不安だった思い、誰かに縋りたかった気持ちが溢れて止まらなくて、私は暫くの間、ただ腕の中で泣きじゃくる子供のようになっていた。

泣くことはずっと悪いことだと信じてた。
だけど、それだけじゃないんだと、ことの時から私は改めてそれを感じた。泣くことは人を弱くするだけじゃなく、強くもしてくれるんだ、と。