二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 少年陰陽師*双月恋妖絵巻* ( No.139 )
日時: 2012/01/31 03:01
名前: 翡翠 (ID: /cDu3FaZ)

〜緤菜〜

走って走って、息もあがってきた頃、ようやく、昌浩の姿を私達は見つけた。ふらりふらりと私達に背を向けて歩くその姿は、意思があるのかないのか見分けがつかないほどで、危うく思えた。

「昌浩っ!」

物の怪の姿から紅蓮へと瞬時に姿を変えた紅蓮が名を呼ぶ。
が、反応はなく、ただ、ゆっとりとした歩調で歩いていくだけだった。

……一体何処へ?

そんな疑問が脳裏を過ぎる。
私達が今居る場所は聖域から随分と離れ、森の奥地へと進んできたところだった。こんな場所に一体何があるというのだろうか?

私が思考錯誤している間にも紅蓮は昌浩との距離を一気に詰め、その頼りない肩に手をかけようとしたその時、だった。

「なっ?!」
「!?」

昌浩の全身……否、内側から溢れ出す青白い炎。
これを私達は知っていた。

「……天狐の炎」

人の身には過ぎた妖の血。
その力の渦が形となったものがあの、青白い炎だという。

「くっ……」

紅蓮の動きが止まる。
近づけばあの青白い炎が邪魔をするのだ。
まるで、それが昌浩の意思であるかのように。

私も詳しいことが分からない以上、下手な行いは出来なかった。
ここまで来て、何も出来ずに手を拱いているしかないのだ。
唇をきゅっと噛み締める。
悔しかった。この場に麗菜が居てくれたなら……と、そう思いハッとする。

ここまで来て、まだ頼ろうとしているのだ。
その事実に嫌気がさす。そして、考えた。
今の私に出来ることはないか。
ここには自分しか居ないのだ。
そう、何時も頼ってきた麗菜も居ない。





——独りなのだ。




そう、考えたとき、不思議な感覚が体の内側から溢れてくるような気がした。溢れてきたのは神気に限りなく近い霊気。
とても清く冷ややかな……。

何か、声が聞こえた気がした。
だけどそれが耳に届く前に私の意識は光の中へと消えていった。