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二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 少年陰陽師*双月恋妖絵巻* ( No.166 )
- 日時: 2012/04/11 22:13
- 名前: 勾菜 (ID: KkB6tonB)
〜麗菜〜
そっと、緤菜が私に向かって手を伸ばす。
あと、ほんの少し。 あと一歩踏み出せばいい、というところで視界が赤に染まった。
緤菜の腹部から突き出ている、銀の刃。
それはジュプッっと、音を立てて引き抜かれた。
そのまま、音もなくくずおれる緤菜。
せつな、と口が動いた。
サーッと血の気の引いていく音がする。
緤菜の周りに、真紅の血だまりが見えた時、ふっと目の前が暗くなった。
「——————ッ!!!!」
声にならない、慟哭とも言える、叫び。
そのまま、膝をつき私は震える手で緤菜を抱き寄せる。
ぐったりとしたまま力なく目を閉じる、緤菜へと手をかざす。
己の纏う衣が血に濡れても気にしない。
気にする暇などできなかった。
だんだんと体温が冷たくなっていく。
急速に近くなる死の影。
「せつ…なっ…」
ぽたぽたと頬を伝う、冷たい雫。
己に流れる血は時司大神の血。
ならば…時を戻すことも可能なはず。
ふっと…意識に靄がかかったようになる。
己の口から、自分自身まったく知らない言葉の響きがこぼれる。
左腕で緤菜を抱き寄せながら、右腕で、貫かれいまだに紅い血を流し続けるそこにそっと手をかざす。
どこまでも、シンと澄んだ痛いほどの神気。
冷たい、だがどこか暖かい神気が辺りを満たす。
呪文を唱え終わるとかざした右手から光がこぼれた。
そっと右手をどかす。
傷はふさがっていた。
だが、私自身の感情は閉ざされたままになっていた。
緤菜に守りの呪を施し、ふらりと立ちあがる。
うつむいたままだった顔を、そっとあげ、封じられたままの珠櫻を見つめる。
普段ならば、澄んだ光をたたえていた、瞳。
その瞳には、光などなかった。
壊れた、心。 散らばった感情の欠片。
頬に伝う雫がこぼれていく心の欠片を表しているかのようだった。
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