二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 少年陰陽師*双月恋妖絵巻* ( No.71 )
日時: 2011/04/16 00:00
名前: 翡翠 (ID: w4sGgUKI)

〜緤菜〜

光の方へ引き寄せられるように歩いていた、私の脳裏に声が響いた。
声は、もう、何時間も耳にしていない、麗菜のものだった。
優しくて、強くて私にとって大切な存在である、麗菜の声。
それが、懐にある、瑠璃の手鏡を通じて伝わってきた。
この、手鏡は二人にとってとても大切な約束の証だった。

「早く、帰って、麗菜を安心させてあげないと、ね」

手鏡に触れながらそう呟く。
…麗菜はあれで、結構寂しがりだから…。
そんなことを思いながらも足を進めていた私の耳にこの場に居るはずの無い声が届いた。

「おい、そこに居るのは、緤菜か…?」

低い、けれど力強いそんな男性の声。
その声の持ち主が誰であるか、私は知っていた。

「…もっくん…?」

不意に出た言葉を聞いた男性がふて腐れた様に、けれど安心したように言ってから近づいてきた。

「もっくん言うな。この姿のときは…紅蓮、だ」

暗闇から現れた紅い髪の男性の姿に安堵する。
そして、同時に二つの疑問を抱いた。

「…騰蛇、じゃないの?それに、どうやって、ここへ?」

会うなり質問攻めをする、私に、戸惑ったように答えてくれる。

「お前になら、晴明からもらった名で呼んでもらっても、良いと思ったんだ。だから、この姿のときは紅蓮と呼べ。それから、ここまではお前の母親と王龍の力によって来た」

すごく、大切なことを一度に言われた気がした。
聞いたのだから、何か言わなければ、そう思うのにどうしてなのか何も言葉が出てこなかった。

「どうした…?どこか、怪我でもしてるのか?」

騰蛇…紅蓮の《怪我》と言う言葉で私は自分が麗菜の体を傷つけた事を思い出す。

「麗菜、麗菜は無事なんだよね!?」

必死に言うと、紅蓮は一言だけ言った。

「お前の姉は…青龍が助けた。だから、平気だ」

青龍、その単語に一人の神将の姿が浮かぶ。
たしか、麗菜と供に行動していた…。
そこまで考えていたときだ、懐にしまっていた瑠璃の手鏡が光り始めた。そして、鏡に外の世界を映す。

「……!」

鏡に映された光景を見た私は言葉を失った。





——鏡には、力尽きた牛鬼の姿と身体を紅く染めた母様がボロボロの王龍様の腕の中で横たわっている姿が映されていた……。