二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 絶対可憐チルドレン ( No.26 )
- 日時: 2011/01/15 13:16
- 名前: 玖織 ◆Kqe55SnH8A (ID: 7aD9kMEJ)
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「好きでこんな人間になったんじゃないわよ…」
薫のベットの傍らで飛鳥はポツリと呟いた。飛鳥の双眸が微かに濡れる。
こんなんじゃ、だめだ。
あの日、生まれ変わるって、決めたから。
遠い昔の記憶が脳裏を駆ける。幾重にも重なる記憶の数々が螺旋を織り成し、眩暈を引き起こす。
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———3年前———
「ただいま…って、いる訳ないか」
お母さん、と喉の奥で呟き、コップに水を注ぎ一息に飲み干した。音を立ててコップを置き、リビングの机に目をやった。リモコンの下に置かれた千円札と一枚の紙切れ。
『飛鳥へ
おかえりなさい。今夜も遅くなります。コンビニで何か買って食べてね
母・父』
「また…」
いつもの事ながら思わずため息が漏れる。
昔からそうだった。
平日は早朝から出て行き、深夜に帰る。休日は自室でPCを叩き、1日が終わる。水族館や遊園地はおろか、運動会や3者面談にさえ顔を出した事がない。
最初は誇りに思っていた。世界の何かに貢献している事を、幼いながらに知っていたから。だから、自分は我慢しなきゃ…様々な欲求をいつも心の中に押しとどめ、カギを掛けてきた。
それなのに…
あれは三年生の時。自他共に認めるこの無愛想な顔と性格の所為で、なかなか心を開ける友達がいなかった飛鳥を、唯一気にかけてくれる女の子がいた。後から知ったのだが彼女は両親のライバル社に勤める両親の子だった。その子に、今度、映画を見に行こうと言われたのだった。正直、嬉しかった。両親の仕事の所為で、映画館なんて行った事がなかった。母さんや父さんとは行けないけど、この子と生まれて初めての映画館に行く。そう思うだけで、心が浮き足立った。
「今度の日曜日、映画見に行くね」
そんなメモをダイニングテーブルの上に置いて学校に行った。
帰って来て、口の中でただいま、と呟いた。
———そのとき。
「ダメよ、映画館なんて」
リビングに母がいた。
「っ!?」
「誰と行くの?」
もごもごと口を開きかけ…その子の名前を呟いた。
「だめよ」
「なんでっ…!」
母が双眸に力を込めた。
「あの子は…××社の子でしょう?あなたを使って情報を聞き出そうとするわ」
愕然とした。あの子ではなく、母に。
あんた達が仕事で…私は…どんだけ我慢して…それで…!!
今、気付いた。
私を利用しているのは、両親だ。
「あなたを使って情報を聞き出そうとするわ」…だって?
その言葉の裏に隠されているものは…私には聞こえる。
『その子から情報を聞き出しなさい』
はっきり言ったら、成果を出せない自分のせい。
言葉の裏に、悪意を隠す。汚い、大人。
何故、気付かなかったのだろう?
私は、両親の道具だったんだ。
気が付くと、大きな鞄と全財産を持って、家を飛び出していた。
行き先は決めてある。
B.A.B.E.R.
私の事を受け入れてくれるのは、家じゃなかった。
私を見てくれないなら、能力を生かす。
空は、ムカツクほど青かった。
何故か涙がこぼれる。
*