二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 心霊探偵 八雲 〝Another FILE〟  ( No.234 )
日時: 2011/08/23 10:26
名前: 凪 (ID: Au8SXDcE)

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第一章 悲劇

 十話(中)

◆◆◆

「その中に入っているのは中山温泉の湖付近で起きた事件の資料だ」

後藤は若林の話を聞いて、茶色い封筒の中身を取り出して確認した。

確かに、A4サイズの紙が5枚ほどホチキスで留められ、情報がいろいろと

書かれてあった。八雲は、おそらく真っ赤なワンピースを着た少女とや

らが何らかの理由で事件にかかわっていたと考えているのだろう。

後藤はA4の紙に目を通す。晴香もその紙に目を通した。

そこには、これまであった湖の死体———

「あ」

後藤が一言漏らす。

「どうした?」

後藤の様子が気になったらしい。若林が首をかしげている。

「そういえば———って、これは八雲が話せばいいか」

後藤の言っている意味が分からないまま、若林がまだ首をかしげてい

る。

「おい、八雲!」

「何です?」

「中山温泉付近の湖で起きた事件、お前が聞いたらどうだ?」

後藤が言い終えた後、八雲が面倒臭そうな顔をした。やがて、八雲は

仕方ない、といった感じでため息をつくと、若林に視線を向けた。

「若林さん」

「あん?」

「三年前、中山温泉付近の湖で起きた事件で水死体が出たそうですね」

八雲が淡々とした口調で言った。

「あぁ…」

「あれは自殺と聞いたんですが、どんな状況で〝自

殺〟踏み込んだんです?」

八雲の問いに対し、若林は「う〜ん」と首をかしげ

た。

「俺はその時ちょうど別件があってそっちに回されてよく知らないんだ

が…遺書があったらしい。『もう疲れた』とな…」

「そうですか。分かりました。有難うございます」

八雲は珍しく素直に頭を下げた。しかし、「ああ、そうだ」と呟き、

すぐに頭を上げた。

「若林さんが回された別件の内容って教えてもらえますか?」

その話題に触れたとたん、若林の頬がピクッと動いた。

「何故だ」

「さっきからずっと気になってたもので」

「……それはいくらなんでも教えられん」

若林がきっぱりと断わりを入れた。

———少し怯えているような。

後藤と晴香は思った。

「何故ですか?」

八雲も若林の様子を見逃さなかったのだろう。目つきが鋭くなった。

「お前らには関係ない」

「では、湖での事件とは僕らに関係がある、と?」

「そう言う事じゃない」

「そう言っているのと同じです」

冷静な八雲に比べ、若林の口調がだんだん荒くなってきている。

明らかに動揺にしているのが分かった。

———何か大切なことを隠している。

後藤は、そう確信した。八雲も気づいているだろう。

———さぁ…どうする?

どう聞き出すか。後藤はちらっと見た。しかし八雲は不敵な笑みを浮か

べているだけだった。八雲はすべてを知っているのではないだろうか。

これ、というものではなくても薄々分かっているのだろう。しかし、

それはあくまで自分の推測でしかない。本人の口から聞き出すことで

話が成り立つこともある。それを八雲は待っているのか。

やがて、諦めたのか若林が深いため息をつき、口を開いた。

答えが聞ける———そう思った時だった。

≪プッ…プルルル…プルルル…≫

どこからか携帯電話の音が聞こえた。

後藤は自分のかと思い、ズボンのポケットに手を突っ込む。

「さっきマナーモードにしたばっかりでしょ」

すかさず八雲の突っ込みが入る。

そうだった。念のため邪魔が入らないよう、三人の携帯電話をマナー

モードにしておいたんだった。後藤はポケットから手を抜いた。

——となると、若林か。

若林はズボンのポケットから携帯電話を取り出して、電話に出た。

「若林だ……あぁ、今?けどな……分かった」

若林は、そう言って携帯電話を戻した。

「用事が入った。その続きはまた後日だ」

若林は後藤達にそう言うと会議室を走って出て行った。



       続≪次回の更新で十話終了です≫