二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 君が教えてくれたこと〜思い出というキーワード〜 ( No.6 )
- 日時: 2011/01/23 13:11
- 名前: 宇野沢千尋 ◆pcUHgqcj4Y (ID: 9MGH2cfM)
—お母さん—
俺が田島家にやってきて、あっという間に1年がたった頃だった。
あれから一切、佐藤家から連絡も何もない。
多分、父も姉も、俺が佐藤家から離れた事を知らないようだった。
そりゃそうだ。あのおばあさんが、父たちにそんな事言うはずがない。
俺を追い出したのは、あのおばあさんだからな。
「ゆーいちろー、バス来ちゃうよー…」
俺は、玄関先で、そう叫んだ。
すると…
「はいはーい、おまたせー」
田島はいつもみたいに笑って玄関から出た。
それは、髪の毛がぼさぼさの状態で、服もぐちゃぐちゃに着こなして。
「こら!ゆーいちろー!!!駄目でしょ、こんなだらしない格好じゃ」
田島のお母さんはそう言い、しゃがんで、髪の毛をとかしていた。
俺は、その光景が羨ましかった。
『僕にも、お母さんがいれば…』
「ゆーとくん、ごめんね。いっぱい迷惑かけちゃって」
田島のお母さんはそう申し訳なさそうに言う中で、田島はお母さんの横にギュッと抱きついていた。
この年だもん。
誰だって甘えたくなるさ。
田島の様子を見ているこっちの立場は…途轍もなく寂しさであふれていた。
「あ、バス来たぜー」
田島はパッとお母さんから離れ、バスへ向かった。
「いってらっしゃい」
田島のお母さんは優しく微笑んで手を振ってくれた。
そういえば、俺が栄口家にいた時も、同じようにしてたっけ。
「ゆーと!楽しみだなー!今日!!!」
田島はそう言ってはしゃぐ。
今日は、市内の体育館で、公演を見に行くのだ。
それには、色んな小学校、中学校、一般人、沢山の人が集まってくるのだ。
「お菓子もいっぱいもってきたぜー!ほらよ!」
田島はそう言って、大きなリュックを開けた。
その時、
《バゥバゥ!!!》
リュックの中には、田島家のあの犬が入っていた。
「ちょ…ゆーいちろー!どうしたの…犬連れてきちゃって…。」
「どうしても、行きたいっていうからさー!なー!」
《バゥバゥ》
さすが田島だ。
動物の言葉が通じ合っている。
そして、体育館へとやってきた。
バスから降りると、先生の指示で、2列に並んで入口へ向かった。
…その時だった。
先頭に立つ、女の先生と男の先生が、地面に座り、頭を下げた。
その状態は、土下座をしている状態に近い。
「せんせーどーしたのー」
と声をあげる子もいた。
「いいから皆、先生の真似をしてちょうだい」
小声で大きくそう言ったのだ。
その時は、何があったのか分からなかった。
前を見ると、黒くて大きい車から、赤いカーペットが敷かれ、そこから、黒くて綺麗な服を着た、一人の少年が、歩いてきた。
その少年は、‘泉財閥,のあととり。
俺達と同い年らしい。
綺麗な黒髪に、整っている顔、大きな目が特徴的だった。
その少年は何も語らず、そのまま横を通り過ぎていった。