二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 異世界の危機 〜魔光石編〜 ( No.312 )
日時: 2011/06/11 22:51
名前: 桜花火◇16jxasov7 (ID: /HyWNmZ0)

9 声なき少女

守たちが試練の間を出た時、修也はある少女とまだ若々しい女性と一緒にいた。少女は夕香、おそらくこの女性は彼女の母親だろう。

「いつもいつも、お世話になって、申し訳ないですね」
「そんなことはないです。夕香だけじゃ、大変でしょうから。それに俺が自分で勝手にやらされてもらってるんですから」

女性は、車いすに乗っている。どうやら、足が不自由の様だ。夕香はキッチンの隣で修也にもらった花を取り換えていた。慣れない手つきで花瓶を左手に持ち替え、危うく落としそうになるが、地面に落とさず花瓶を見事にキャッチした。花瓶が割れなかったことと、母にばれなかったことの安心感で、小さくため息を吐いた。

「夕香があの事件から『声』が出なくなって、立ち直れたのは、貴方や守さん達のおかげですね」

——二年前の事件、それはいきなり夕香に襲い掛かった。その事件後、夕香は以前のように声が出なくなったのだ。今更気づいても遅いが、これもアルティスの仕業ではないのかと思う。アルティスのことを考えれば考えるほど、憎悪が心の底から湧いてきた。しかし、その事件の場には修也もいた、アルティスだけではない、自分のほんの一瞬の迷いで彼女を救うことができなかった。今もその悔しさは心の中から一度も消えたことはない。

修也は「守」という言葉を聞き少し機嫌を悪くするが、すぐにまた優しい表情に戻った。この場に憎しみの感情はいらない。

「夕香は必ず助けます。俺が命に代えても、絶対に…」

修也は手に力を入れ握りしめた。

「無理なさらないでください。貴方も仕事で大変でしょうから」
「大丈夫ですよ。きちんと体調管理もしてあります。それに夕香や貴女の方が心配です」

修也がキッチンから出てくると、湯気の立っているおいしそうなシチューが鍋の中にあった。
夏未ほどではないが、修也もある程度の料理はできるように育てられている。守や秋それに春奈もそうだが、作るのがめんどくさく、家事はほぼすべて夏未に任せてある。しかし、夏未自身は怒ったりはしない。むしろ、家事ならすべて任せろ、とやる気満々で楽しんでいる。彼女にとっては家事をすることが、ストレス解消につながるのだろう。もう長い付き合いになるが、いまだに彼女の考えや趣味が理解できない。むしろ理解できる人の方が少ないだろうが。

「時間なので、そろそろ俺は行きます。シチュー食べてください」
「ありがとう。夕香、修也さん行っちゃうよ」

夕香の名を呼ぶと、すぐに夕香が慌てて花瓶を置き。修也の方まで走ってきた。
手についた水滴を自分のスカートでふき取る。その動作に苦笑しつつ、修也は夕香と同じ目線にしゃがみ込んだ。

「体は大丈夫か?どこも痛いところとかないな?」

修也が聞くと、夕香がコクンコクンと何度もうなずく。

「よしっ、お母さんの体に負担をかけすぎないようにな」

修也が微笑みながらそういうと、夕香は任せろ、と胸を張った。最後に修也が夕香の頭を優しく撫でると、ゆっくりと立ち上がり、家を出た。

「本当にいいお兄さんだね、夕香」

夕香は満面の笑みでうなずいた。