二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 異世界の危機〜波風美麗(少しだけ)登場!〜 ( No.453 )
日時: 2011/07/24 23:32
名前: 桜花火◇16jxasov7 (ID: /HyWNmZ0)
参照: 明日から水曜日まで更新お休みです♪

22 奇跡の力

コンコン
大きな扉に冬花は二、三度ノックをした。
この扉の向こうには、もう一人の自分がいる。その様子が気になって仕方がなかった。今は緊急事態かもしれないが、それでも彼女を放っておくことはなぜかどうしてもできなかった。


返事がない。
コンコン
もう一度軽くノックをする。すると、今回は小さく弱々しい声が帰ってきた。

「どうぞ…」

中へ入ると、虚ろな瞳で冬花はベッドの上にペタンと力なく座っていた。何か考え事をしているようだ。

「いきなりお邪魔してごめんなさい」
「ううん、構わないでください。私は大丈夫ですから」

ニコッと笑う。それでも、その笑顔をどうも信用ができない。

「少しお話してもいい…かな?」

一瞬キョトンとした表情を出すが、すぐにまたあの笑顔でコクンと小さくうなずく。
冬花は彼女の隣に座った。

「おかしな質問かもしれないけど…この世界は好きではないの?」
「そんなことないです。私はこの世界が大好きです。気持ちなら誰にも負けない自信があります。ただ…」

足をそろえ、体育座りの体制で膝を抱え、顔を少し俯かせた。今の表情はあまり見られてはほしくないらしい。

「怖いんです…」
「怖い?」
「はい…この世界の裏の掟に飲み込まれていく守たちが…飲み込まれてしまったらもう戻って来れない気がして…またあの時みたいに私のもとから離れていくのかなって…」
「これ言うとちょっとおかしいかもしれないけど…もしかして、もう一人の守くんたちをずっと自分の傍に置いておきたいの?」
「え?」
「私、よく考えてみたの。もしかして、もう一人の私って守くん達を独り占めにしたいのかもしれない」

図星だった。
本当はずっと守や夏未たちが傍にいてくれるのを心から願っていた。しかし、自分は王族、彼らは国の平民、しかも兵士だ。このような関係は普通取ってはいけない。いくら幼馴染だからと言って、ほかの者よりも親しくしてしまうのはあまりいいことではない。それに、冬花は守に対して友情とは別に、ほかの感情を持っている。自分でもそれはよく分っていない。

「…私って我が儘なのかな。いつも、守たちがお仕事に行っちゃうときとか、すごく寂しく感じるんです。町の人も兄様もいるのに…どうしてだろう」
「貴女は……守くんが好きなの?」
「えっ、あ、あの…ち、違うの…守たちはただの幼馴染だけで…///」

言い終わると、すぐに真っ赤になった顔を衣服に隠すようにして、俯いた。
その様子に見てクスクス小さく笑った。
自分も円堂のことを思い浮かべてみる。いつも太陽の様な笑顔で笑い、仲間と馬鹿みたいにサッカーに熱中している彼は本当にかっこいいと思う。再開した時は記憶がなかったが、今ははっきりと覚えている。円堂守という存在は自分にとって昔から変わらず、ものすごく大きくて、安心のできるものだった。
彼といるときは一番楽しいかもしれない。彼がいなければ、今の自分はどうなっていただろう、今では彼が自分の希望の星となり、道標でもある。それがないなどと考え付くこともできない。答えが出たとしても、決していいものではないと確信がある。

「クスッ、私も同じだから」
「うっ…だから〜///」

沈む夕日が真っ白の部屋に明るく射し込んだ。オレンジ色の光がほのかに彼女たちを照らす。真っ赤だった冬花の顔もあまり目立たなくなっている。

「でも、もう一人の守くん達もそう思ってると思う。本当はお仕事に行くのが嫌なんじゃないかな?」
「どうして、そう思うの?」

冬花が顔をあげた。まだほんのりと頬がピンク色に染まっているが、さっきまでよりは大分目立たなくなっている。

「う〜ん、なんと…なく?」
「……」

首を傾げて、人差し指を立てた。今まで真面目に聞いていた、冬花もついに無言になってしまう。

「でも、本当にそう思うの。少し離れただけで、あの人たちも寂しそうな感じがする…表面上には出てないけど」
「…ありがとう」
「?」

急に小さな声で言われる覚えのない礼に、もう一度首を傾げた。

「私って本当にバカ…守たちも一生懸命なのに、私はそれを邪魔してばっかり…でも、貴女の言葉で少し元気になれた気がする。ありがとう」

今度の笑顔は本物だった。心の底から目の前にいるもう一人の自分がうれしそうにしているのを見て、少しはほっとした。しかし、まだ自分の心には何か引っかかる感じがした。それは何なのかは分からないが、いつか気持ちがスッと晴れる日が来るだろう。今はそう信じるしかなかった。

「この世界に来て、私、いろいろ学んだことがあったの」
「学んだこと?」
「うん。まずは、世界はこんなにもたくさんあって広いんだな、って感心した。もう一つは…」

一度小さく深呼吸をすると、区切った話を続けた。

「どんな世界でも、人を思う気持ちはどこにいても変わらないんだ、ってこと」
「思う、気持ち…」
「誰かに会いたいとか、誰かが愛しいとか、全然変わらない。仲間や友達を思う気持ちだって、ちっとも変ってないなって」
「それでも、憎しみもあります…」

悲しそうに呟いた。

「うん、そうだね。でも、憎しみを慈しみに、不可能を可能に、絶望を希望に変える大きな力も、この世界に、皆の心には絶対あるって私は信じてる。だから貴女も信じなきゃ、もう一人の守くんや夏未さんのこと」

そっと、両手で冬花が手を包み込むように優しく握った。握られた冬花も体の底から力が溢れてくるような、そんな感じがした。





「うん、そうだよね」