二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン 異世界の危機 魔法募集中 ( No.567 )
- 日時: 2011/09/19 10:55
- 名前: 桜花火◇16jxasov7 (ID: /HyWNmZ0)
〜七年前・フェアリー王国〜
「郁斗〜サッカーやらないか?」
オレンジ色のバンダナをした小さな少年、守がつまらなさそうに、隣に座っていた少年の裾を引っ張りながら言った。
「おう!サッカーやろうぜ!」
「えぇ〜またぁ〜?さっきやったばかりでしょ〜」
黒い短髪の男の子が、手にサッカーボールを持ちながら笑顔で言った。
少年の名前は『郁斗』。守たちと同じ、瞳子に育てられてきた一人だった。特に彼はサッカーが大好きだった。毎日朝から晩までサッカー、それでも、飽きずにボールを追いかけ、一緒に遊んでいる、実の兄弟のように仲のいい少年だった。
間抜けた声を出したのは小さな春奈、テーブルにヒジをついて、あくびをしながら言ったのだ。右目を擦り、どうにか眠気という名の睡魔に負けないように、必死に足掻いている。そろそろ夕食なのに、寝てしまっては、大好物を兄弟たちに取られてしまう。
「修也は?」
「いいよ、やろう。俺も体動かしたい!」
同意を求めるように、郁とは修也に聞くと、すぐに修也が笑顔で答えた。
「えぇ〜皆やるのぉ?じゃあ、私も〜」
「……私も」
「よし、私もやるッ!!じゃあ、河川敷でやらない?」
まとめてあるポニーテールを揺らしながら、夏未が身を乗り出して言った。
「姉ちゃん〜サッカーやってきていい?」
郁斗が奥のキッチンでテキパキと手を動かしている女性に話しかけた。黒いロングのその人は、夏未たちを自分の弟や妹のように育てている、瞳子。
「いいわよ、あまり遅くならないでね。特に男子陣は時間に気を付けるように」
「「「はぁ〜い!」」」
元気よく、返事をして小さな六人は、家を飛び出した。
いつものように、河川敷でサッカーをするつもりが、大惨事を迎えることも知らずに———
「修也!パス!!」
「郁斗!」
「皆〜!」
坂の上にいたのは、小さな女の子。顔を見せないようにフードで隠しているが、その声や仕草で誰なのかははっきりと分かった。冬花だ。いつものように、城を抜け出してきたのだ。
「姫、姫!!こっちに来て、サッカーやろう!」
「うん」
冬花も加わり、七人で毎日のようにサッカーを楽しんでいた。
辺りが暗くなってきた頃———
「郁斗くん、そろそろ帰らないと、瞳子さんに怒られちゃうよ?夏未ちゃん達も疲れてきてるみたいだし…」
「俺たちは大丈夫です!!なっ、守!修也!」
「「うん!!」」
女性陣はともかく、男性陣はとてもやる気で、まだまだ体力が残っていたが、最後の一発、という条件で、サッカーを続行することにした。あの時、冬花の話を聞いていれば、郁斗はいなくならずにすんだのだろう。
「シュート!!」
守の蹴ったボールは、大きく軌道を外し、遠くの川の方へ行ってしまった。
「あっ、ごめん…取って来る」
守は飛ばされてしまったボールの後を追い、浅い川まで行き、ボールを取り上げようとした瞬間、川の流れが突然早くなった。
「うわっ!!」
「守くん?今の守くんの声だよね?」
冬花の耳にはすぐに守の声が届いた。
川の流れに足を取られ、転んでしまった守はボールを抱えたまま、流されていく。
「「守ッ!!」」
「どうして川の流れが!?」
その直後、大きな轟音が響き渡った。守の流れ行く先には———巨大な魚の形をした魔物だった。
「「守!!」」
川の流れが速すぎて、修也たちがどんなに走っても追いつくことができない。魚の魔物は、大きな目玉をギョロリと動かし、修也たちを睨んだ。
それに気づいた、彼らは足がすくみ、守を助けるどころではなかった。その場にしゃがみ込み、今にでも攻めてこようとしている魔物を、涙目で見上げているだけだった。
「あっ……ぁ…」
鋭い牙をむけた魔物の目に映ったのは——弱った守の姿だった。
「ま…もる…」
《ギッシャァァアア!!!》
ピクリとも動かない守を、魔物は大きな口そして鋭い牙で噛み千切ろうと、勢いよく突っ込んでくる。
「ッ!!」
その時だった。
どうにか足に力を入れ、郁斗は立ち上がって、守の体に体当たりし、彼を川の端の方へと突き飛ばした。
守の代わりに郁斗が魔物の口の中へと姿を消した。
直後。辺りに、赤い液体が飛び散り、守たちの頭は真っ白になった。何が起きたのか分からなかったのだ。
消えた郁斗のすがた—ゴリゴリいう何かを噛むような音—赤黒い血—口から落ちた赤色に染められた小さな靴。その時、すべてを悟った。————郁斗がかみ殺されたのだ。
魔物は天空に向かって雄叫びを上げると、もう一度地面に力なく座り込んでいる守たちを睨みつけた。
驚愕と恐怖に目を丸くし、守たちは見つめるしかなかった。血まみれの口を大きく開けた。
食われる、と思った瞬間、黒い閃光が飛び込んできた———瞳子だ。
「ハァッ!!!!!」
長剣の一斬りで、魔物の体は真っ二つに斬れ、黒い空間に飲み込まれた。瞳子の魔法で魔物は別の空間へと転移されたのだ。
「ねぇ…さん…」
「ごめんなさい……郁斗を……助けられなかった……」
瞳子の登場で、意識を現実に戻された守たち。震えるその体を、瞳子はそっと強く抱きしめた。彼女も声を押し殺して泣いている。
「ぃ…く…と…うっ、うわ〜ん!!」
表情を現さない秋でさえも、大声で泣いていた。冬花はショックで泣くこともおろか、動くこともできなかった。目を大きく見開き、辺りに飛び散った赤い鮮血を見つめていた。