二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 異世界の危機 魔法募集中 ( No.593 )
日時: 2011/09/22 19:25
名前: 桜花火◇16jxasov7 (ID: /HyWNmZ0)
参照: 遠足で、ディズニーランドに行ってきました!

43 心を包み込む灰色

《俺はもう一度、お前にサッカーをやってほしい》

ふと、昨日の円堂の言葉が、脳裏によみがえった。
あいつはどうして俺にそこまでして、サッカーをやらせたがっているのだろうか。
自分の気持ちに嘘をついているから、と彼は言う。
でも、何度も思うが、俺とは円堂は関係のないはずだ。元の世界に戻ったら、もう二度と会うことがない。それでも、円堂は必死に俺をサッカーに向き合わせるようにしている。それが実際的に嫌なのだが、自分の心は拒絶ではなく、もっと別の不思議な感情が渦巻いていた。

「俺は…何がしたい……?」

まだ暗い部屋の中で、守はベッドの上で右手を挙げ、天井を見つめていた。
今日の正午、俺も護衛として、円堂にあの世界へとついていく。もちろん、相手には姿を見せない。陰で隠れながら、様子を見るだけ。

《郁斗はお前のせいだとは思ってない。アイツはお前にサッカーをやってほしいと思っている》

……お前に、何が分かる?
あいつは俺ではない、それ以上にこの世界の人間でもない。まだ会って少ししか経っていない人。なのに、どうしてあんなことを言える?夏未や冬花からでさえも、そんなに言われなかった。

《俺たちの試合を見てほしい》

見てどうするんだ?それで、俺の気持ちに整理がつくと思うのか?例え、郁斗が俺を憎んでいなくても、俺は俺自身が憎い。弱虫で、泣き虫で、自分勝手な過去の自分が。

——もっと強くならないと、ダメなんだ……

この思いが、アルティスを引き寄せたのかもしれない。それでも俺は力を望む。冬花や俺の仲間たちを二度と同じ目に合わせないためにも……命の代えても絶対に守る。俺はそう決めたんだ。だから、剣士になった。
心の奥でそう自分に言い聞かせると、俺はベッドからゆっくりおりた。そろそろ、修也も起きる時間だ。
暗い部屋を後にしようと、扉を開けた。

「おはよう」
「いつもより、少し早いのね。朝食、もうすぐだから、少し待ってて」

キッチンでは、夏未が淡いピンク色のエプロンをつけ、朝食を作っていた。起きるのには、まだ少し早かったみたいだ。

「変な夢でも見たの?」
「いや、昨日、少し眠れなくて…」
「まさか、一日中起きてた?」
「……」

冗談半分に言った言葉が、まさか事実だとは驚きだった。何もしゃべっていないが、表情を見れば大体何を考えているのかすぐに分かる。昨日、守は一晩寝ていないらしい。寝不足で倒れることはないだろう。修行で三日寝ていなかった時もあったため、夜更かしには相当慣れている……はずだが。

「大丈夫なの〜?今日は大変だよ?」
「あぁ」
「ほいっ、できた〜!」

朝食ができたと同時に、修也の部屋の扉が開いた。まだ少しだけ眠そうな表情だが、顔を軽く洗うと、目が覚めたようだ。

「おはよう、修也」
「あぁ」

いつもと同じ会話。何も変わらない。ただ変わったのは俺だけなのだろうか。

「ほら、何ボーとしてんの?早くしないと、特訓できなくなるよ?」
「そうだな…」

試練の間—守と修也が毎朝通っている場所だ。そこで、ダンジョンの攻略と剣術や体術をみがいている。最近は円堂たちの護衛もあり、あまりそこにいられないが、少し時間ができれば、そこで特訓している。
軽く食事を済ませると、いつもの服装に着替え、愛用の大太刀を持ちながら、家を出た。





「らぁぁぁああ!!!!!!」

何も考えずに、攻めてくる雑魚モンスターを一匹残らず守は叩き斬る。
次々と巣穴から出ては、薙ぎ払い、斬り飛ばし、はねのける。

「ハァハァ……」
「お〜荒れてるな」
「るっせぇ…」

さっきから背後で修也は守の戦闘を見ていた。いつもと明らかに違う。戦闘の態勢、剣さばき、体術…すべてがむちゃくちゃだ。ただ何も考えずに暴れているようにしか見えない。隙だらけで、守が少しでも気を緩めれば、誰だって簡単に今の彼を叩き落せる。おそらく、今は自分を制御できていないのだろう。自分でも、魔力の消費量に気づいていないようだ。
今まで、守とは何度も剣を交えたことがあるが、こんなにも荒れている様子を見たことがない。

「お前、暴れすぎるなよ」
「黙れッ!!!!!」

息がものすごく荒い。それもそうだ、こんな戦い方をずっと続けていれば、体力と魔力はともに消費していく。雷の刀を握っている彼の手も、次第に震えが激しくなってきている。
せめて、秋でも連れてこれば、と今更後悔した。自分は回復魔法が使えない。例え使えたとしても、守はおとなしく自分の治療を受けないだろう。いや、今の状態では誰の話に耳を貸さないはずだ、それが冬花であっても。

ここは洞窟のフィールド。あの灼熱地獄よりも強いモンスターが出没するところだ。あの場所でも危ないのに、ここで暴れていては、背後を取られ、命を落とす危険だってある。
洞窟のあちらこちらにあるのは、巨大カマキリの巣穴。体の大きさだけではなく、二つの鎌は目立って大きく鋭い。斬られれば、大けがを負うことは間違いない。一匹や二匹程度なら、まだ楽だろう。しかし、守は今、周りの様子が見えていない。巨大カマキリを刺激過ぎて、巣穴からはぞろぞろと大量に出てきた。このままでは、守はやられてしまう。
何度か、自分も加勢しようとするが、その度に守に跳ね除けられてしまう。危うく、胸に大きな傷をつけられるところだった。

「ハァァアアア!!!!!!」

キィィィンと耳の奥まで響く金属音。振り上げられたカマキリの鎌を守が剣で防いだのだ。その威力で火花が散り、辺り一面を明るく照らす。
力で押し切り、一度跳ね返された鎌は、もう一度同じ攻撃を繰り出す。守の頭上に鎌を勢いよく振り下げる。いつもなら、すぐに反応できるのだが、今は数瞬遅れて、剣を掲げ、かろうじて防御の態勢に入る。
しかし、今回は守の背後からも攻撃が迫ってきた。

「守ッ!!!!!!」

修也が叫ぶのを最後に、守の意識は途切れた。