二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ボカロ-Song Story-【リクエスト受付中】 ( No.16 )
日時: 2011/02/13 10:51
名前: みかん ◆2.5icxJI2o (ID: OPVNjM8g)



 「歌って一体何だろう……?」


 【うたうたいのうた/初音ミク】


 僕のご主人は歌唄い、誇らしげな顔して言葉を吐くんだ。
 くだらないと人は言うけど、ありふれたとても優しい歌。

 これは、まだ僕らが幸せだった頃の話。


 僕のご主人は一日中机と睨めっこして、頭の中の音を楽譜に描き殴る。
 楽しい事も、悲しい事も、嫌な事も、みーんなみんな。

 ごちゃ混ぜにして五線紙を塗り潰すんだ。


 歌の中なら何処へでも行けた、何にでもなれた。
 例えば月の裏側とかに行ったり、夢の終わりとか見たり。

 そして、メロディーを奏でていくんだ、まだ見ぬ誰かの為にね。
 歌が届かないと知っていても———。


 さぁ、声を枯らして唄うのさ、寂しさも温もりも、皆忘れて。
 でも朝になったら元通り、ホラ、今日もまた夜が明けていくんだ。


 僕のご主人は歌唄い、最近少しづつ唄うのが減ってきて。
 そして僕も少しづつご主人から離された。

 そしてたまに思い出したように僕を抱え、満足げな顔してご主人は言葉を吐く。


 もう唄う事がなんにも無いと、泣いていた夜も、僕も一緒に悲しんで。
 あの子が褒めてくれたんだと、喜んだ夜も、僕も一緒に喜んだ。
 もう戻らないけど、叶うならもう一度あの頃に戻って。


 「ご主人と———くだらない歌を唄いたい———!!」

 
 でも、もうそれは叶わないことは、分かってるんだ。


 ねぇ、声を枯らして唄う事、僕もそれさえも少しだけ疲れてしまった。
 ぎゅっと閉じた瞼、その奥で堪えきれずに大粒の涙が落ちる。


 あなたが望んだ事ならば、僕は諸手を挙げて祝いましょう。
 あなたの新たな門出に乾杯を、そこに——僕が居なくとも。


 ところがある日。
 ご主人は何を思ったのか、いきなり立ち上がって。


 「まだまだ大事な事を唄っていない」


 と僕を手に取って。


 僕に笑顔を、誇らしげな顔してケースを開けた。


 「さぁ!声を枯らして唄うのさ!!」


 寂しさも温もりも、皆忘れて、そして朝になったらきっと新しい。


 毎日がホラ、続いてゆくんだ!


 ずっと、ずっと……続いてゆく———。

 
 *end*