二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: D.Gray-man -contrast- ( No.65 )
日時: 2011/02/27 20:11
名前: 蛍 ◆LU8WrcLlXI (ID: wJNgr93.)

 9———


 はしゃいで遊び回る幼い少年。

「シン……」

 呟くカレンの言葉に少年が答える。

「カレンねえちゃん!」

 無邪気に駆け寄る姿。誰から見ても幸せな姉弟であろう。

 ———……それが。

「ねえちゃん! 村の外れの祠に伝説の剣っていうのがあるの知ってる?」

 くりくりっとした目で元気よく訪ねる。

 ———だめ、それに近づいてはいけない。

 そう思っても言葉が口から出てこない。体は言うことを聞いてはくれなかった。

 この風景は、過去の記憶。過ぎ去ってしまったこの風景には誰も干渉することはできない。

「知ってるわよ。地面に刺さってて誰も抜けないんでしょ?」

 あきれ気味にカレンが答える。

「そう! 選ばれし勇者にしか抜くことのできない伝説の剣なんだ!」

 身振りを付けながら得意げに話す。

 この年の男の子にとっては伝説の剣なんてのは格好の良い憧れの対照なのだろう。

「こんど友達とみんなでその剣を抜きに行くんだ! 絶対ボクが抜くんだから!」

 その瞳はヤル気に満ちていた。

「ふふっ、絶対に無理よ。お父さんだって抜こうとしてだめだったんだから」

 そんなことを言ってからかうカレンにシンは不満げに頬を膨らました。


 また場景が変わる。

 シンが伝説の剣に手を掛けている。その柄を握り——

 ———やめて! やめなさいシン!


 カレンが心の中で叫んだ瞬間広がるヴィジョンが砕け散った。

 正常に戻った視界に大穴の開いた氷壁が映った。

 ティナも幻夢にとらわれていた様で頭を押さえている。

 ———場の氷が解けて幻夢から開放されたのか。

「アーノルド!」

 ティナが声を上げた。

 穴の向こうではアクマと火の玉に囲まれ傷つき苦戦するアーノルドの姿があった。

 カレンもその様子に気を取られる。

 ふと、場の寒さが和らいでいることに気がついた。

「ティナ! イノセンスが!」

 気付くと雪女は消えていた。

 カレンたちが気を取られている隙に逃げられてしまった。

 ティナは自分の失態に悪態をついた。

「くそっ……イノセンスは私が追うカレンはアーノルドの援護をしてくれ」

 カレンを気遣っての判断であろう。だが——

「ううん、アーノルドさんはティナが手伝ってあげて。私がイノセンスを追う。私に行かせて欲しいの」

 強く言う。ティナは少々考えていた様子であったがカレンの態度を受けその申し出を呑んだ。

「イノセンスを頼んだ。アクマは私たちに任せて」

 そう言いティナは壁に開いた大穴からアーノルドのもとへと向かった。

 カレンの気持ちを思いやるティナにカレンは心から感謝した。


 ———シン……。