二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 薄桜鬼 〜恋雨録〜 ( No.8 )
- 日時: 2011/02/18 16:17
- 名前: うい ◆U2fwXad6qI (ID: VxqablIi)
>>7
その日の夜
僕は部屋に明かりをつけ
刀をとり
鞘から刃を覗かせる
「君だって
血が吸いたくてうずうずしてるよね?」
刀に聞いたって
しょうがないのに
誰かにわかってほしいんだ
僕のこのじれったさを
あれから誰一人として
僕を訪ねてはくれなかった
もしかしたら近藤さん辺りは
来てくれるんじゃないかって思ったけど
とんだうぬぼれだったみたい
誰も僕をわかってくれないのかな
刀を鞘に納め
枕元に置く
まるで刀だけが自分の理解者みたいに
「……」
「だれ?」
誰かが部屋の前にいる気配がある
まぁ誰かはわかってるけどね
「沖田さん、よろしいですか?」
「…どうぞ」
「失礼します」
千鶴ちゃんはお茶とおにぎりを持って
僕の部屋に来た
彼女は僕と目を合わせようとしない
「夕餉をお持ちしましたから
よろしかったら召し上がってください。
お茶、入れましょうか?」
「うん、お願い」
恐るおそる、って感じかな
なんで僕を怖がってるのかわからないけど
気に入らないな
「どうぞ」
「ありがと」
僕は彼女の入れてくれたお茶を受け取り
一口
彼女はずっと下を見てる
表情が歪んでる
なんなの?
「千鶴ちゃん」
「…はい」
「そんなに床は見ごたえあるかな?」
「……」
「僕が何言いたいか、わかる?
下ばかり見てないで
何か言ったらって言ってるの」
そう言うと彼女は
ゆっくり顔を上げて僕を見る
その表情はすごく切なくて
何か言いたげだった
「沖田さん
ごめんなさい」
「なんで謝るの?」
「沖田さんを
傷つけたから」
僕を傷つけた?
僕が君を傷つけたのはわかるけど
いつ君が僕を傷つけたの?
「同情、がなかったとは
言えません。
もしかしたら私の中で
沖田さんをかわいそうと思っていたのかもしれません。
でも……」
彼女はなんだか泣きそうになってる
同情だったこと
認めちゃったんだ
僕は僕より弱くてかわいそうな彼女に
かわいそうだと
思われていたんだ
僕にとってはそれが
すごく悲しくて
悔しかった
「でも、でも私は
沖田さんがいなくなるは嫌だって……
そう思ったんです。
あなたのいない世界は嫌だって!」
「生きて欲しいんです。
私は、私は沖田さんが……」
その瞬間
僕は彼女を抱きしめていた
強く
彼女を求めるように
「お、きたさん」
「僕は、馬鹿だね。
君を泣かせてばかりだ」
愛おしい
こんなに一生懸命に
僕をなぐさめようとする姿
さっきの言葉で
彼女の気持ちがわかった
うぬぼれかもしれない
でももう僕は
この子を手放せない
「追い詰めちゃってごめんね。
なぜだか僕は、君が相手だと
全部言いたくなっちゃうんだ。
傷つけるってわかってるのに
千鶴ちゃんを見ると止まらなくて
でも本当は……」
わかってほしかった
そう
僕は素直になることができない
いつだって強がって
大人ぶっていたのかもしれない
本当は弱いんだ
誰かがいなきゃ
生きていけない
だからね
だから
「私がわかっています。
沖田さんの強さも努力も
寂しさも悲しみも辛いのだって
私が全部、受け止めます。
だからもう
一人にならないでください」
君は本当に
僕の中に土足で入り込む
でもそのときにはかならず
僕の手をとってくれるんだ
彼女の小さな体を強く抱きしめた
かすかに震えているのがわかる
でもその震えが恐怖からではなく
その小さな体すべてで
僕を受け止めようとしてくれているものだって
わかったんだ
その日の夜
僕は彼女を離すことができなかった
−続く