二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン☆大好きな、君だから☆ ( No.113 )
日時: 2011/10/31 22:43
名前: みかん (ID: QEDC6Aof)

第11話:モヤモヤ。
翌日も、放課後、守は監督から頼まれている『調べ物』をするために図書室へ向かった。監督から頼まれている調べ物…、
これは監督の娘である冬花にでさえまだ伝えられない事だが、実を言うとこれは「歪みつつあるサッカー」についての事だった。
守達が第一回FFIで優勝し、更にその翌年も16歳で出場年齢枠から外れてしまった綱海以外の全員で2連覇を果たしてから、早3ヶ月余り。その3ヶ月の間に、いや、もしかするともっと前から…、大人たちの間ではこんな考えが広まってしまったらしい。
ー『サッカーができる能力こそ、その人物の価値を表すのではないか』
…馬鹿馬鹿しいと思った。そもそもサッカーはチーム皆で楽しむべきものだ。フィールドに居る全員が、皆どろだらけで必死になってボールを追いかけて、観客やベンチの人達の心も全部全部一つのボールに引き寄せていく。試合の勝敗はその上に乗るものであって、決して下の土台を崩してはならない。その気持ちを忘れてはならない、そう守はいつもじいちゃんから言い聞かされていたから。それを信じていたから。
だから、その早くも歪みつつある大人の考えを再び元に戻すために、自分たちの大好きなサッカーの『土台の気持ち』を崩させないために、守は監督の頼みに一も二も無く頷いたのだった。もちろん彼だけでなく、元イナズマジャパンのメンバーは全員がこの話を持ちかけられ、協力している。
それぞれに分担された国や地域の中でその『歪んだ考え』を振りかざして目立った行動をしている人物を探し、居た場合は直ぐに監督や仲間全員に報告すること。又、その国や地域で『歪んだ考え』を生むきっかけとなった出来事、人物を速やかに見つけ出すこと、…というこの話に。
しかしながら、山程の資料無しではそんな簡単な報告書一つ作成できない守は柄にもなく部活の無い日の図書室通いを始めた。…それと、理由はもう一つ。
「…冬っぺ、もう来てるかな…?」
不謹慎ながらも大事な調べ物の最中にそんな事を考えてしまう自分に、守は内心苦笑する。どれだけ自分は冬花に惚れてしまっているのだろう。
毎日自分を探して図書室まで来てくれる可愛い彼女を、実は守もこっそり楽しみに待っている。毎日自分の作業が終わるまで課題をして、一緒に帰るのを待っていてくれる可愛い彼女を、実は守も嬉しく思っている。
大切に思いすぎるあまり、冬花に向けて言葉一言を発するのにも億劫になってしまう自分ではまだまだそんな事言えっこないけれど…。
いつか言えたらいいな、ちゃんと色んな事、話せたらいいな…。
あの図書室での時間は守にとっても、冬花への気持ちを振り返り、改めて実感できる、そんな時間にもなっていた。


*****
その日はまだ冬花は来ていなかった。
今日は少し早すぎたか…、などど思いながらいつもの本を右手に取り、ついでにこれは一休み用にとサッカーの歴史書を左手に収める。
…と、収める寸前で隣…。というよりも左斜め下の方から小さく「あっ…、」という声が聞こえた。
そちらを見ると、高校生にしては失礼ながらも少し小さいと思われる背丈の、黒髪の三つ編み少女が小さくなって俯いている。元々小さなその背中が、ますます猫背によって小さくしぼんでいるのを見て…、
(だああああー!!何だろう何でだろう!?
ただ読みたい本がたまたま同じタイミングで重なって、それを少しだけ早く取ってしまったのがオレってだけなのに!!何でかスゲーデカイ犯罪でも起こしちまった様な罪悪感が…。)
守は慌ててその本を彼女の前に差し出した。
「ごっ、ごめん!その本君も取ろうとしてたのにっ」
「…え、あっ!!ううん、いいの。
と言うよりも、寧ろあたしの方がごめんなさいっ!取ろうとしたのが遅かったのはあたしが悪いからなのに、あなたに謝らせてしまってっ…!」
すると彼女の方も謝らせてしまった。軽く頭を下げただけの守よりも遙かにきちっとした角度で腰から上をぺコンと曲げ、必死になって言葉を発している。彼女が勢い良く上体を上げ下げしたり言葉を発する度、胸元まである2つの三つ編みの束がふわりと揺れてまるでいつかの頃テレビで見かけた垂れ耳兎の様だ。
しかし一つだけ違っていたのは、その垂れ耳からはにんじんではなく、花の優しい匂いが香る事だった。
(…あれ、オレこの匂いどっかで…。)
「守くん」
そんな彼女の様子に何となくの違和感を覚えた瞬間、後ろから愛しくて仕方がない彼女の声に呼ばれた。
「…お、おう。冬っぺ、ホームルーム終わった?」
「あ、うん。ごめんね、ホントは今日のホームルームはとっくに終わってたんだけど、美化委員の仕事が今日あたし当番に当たってて」
「いや、大丈夫。オレも今来たとこだし。
席、行こっか」
「うん」
二人並んで歩きかけて、…やっべ、忘れてた。
「えーっと、…そうだ!三つ編みさん、パス!」
「へ、あたし…、ってわわわっ!」
肩越しに本を真っ直ぐ後ろへ投げて彼女の腕の中に、…よっしゃ!綺麗に入った!
「オレこっちの本もあるから、その本そっちが持ってってよ!」
「え、あのっ。でもっ」
きっと凄く優しくて下手な性格なのだろう。尚もこちらを気にしてくれている彼女を笑って制した。
「オレこの娘に待っててもらって調べものしてるしさ。でも手元にあるとつい読みたくなっちゃうから、そっちが持っててくれると逆に助かるよ。
ホラ早く、貸出できない本だったし、今の時間にもう読んじゃわないと」
言うとようやく「ありがとう」と言ってほわりとほほ笑んでくれた彼女にホッと胸を下ろしつつー、
「…何だろう、このモヤモヤ…」
何故だろう、
自分と彼女には何の関係も無いはずなのに。
隣には愛しい愛しい彼女が今日も自分の帰りだけを待っていてくれているというのに。
胸の奥に、何故だか、どうしても、
モヤモヤをした黒い霧がうずめくのを、守はただ、感じていた。