二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

【一章】 約束の日 ( No.16 )
日時: 2011/02/20 15:44
名前: ミズキュウラ・ドラッテ (ID: p./2qFOd)

 『大人になった時、助けに来るから』

 覚えてる。
 覚えてるよ。

 記憶の中で彼が笑う。

 もう9年も前の約束だけど、私は忘れていない。

 夜。
 部屋に閉じ篭ったティファニーは暗い中彼を想った。
 約束の場所。
 枝垂桜のある森。
 桜の木が神木として祭られている処。
 ティファニーとアルファードは約束をした。
 大人になったら、助けに来ると。
 痣が増えるたびに、ティファニーの心のキズは大きくなっていく。
 それでも心身が崩壊していないのは、アルファードとの約束と彼の笑顔があったからだ。
 
 あと…もう少し。
 もう少しで、アルと逢えるの。
 あの桜の木の下で。
 約束をしたから。
 あの場所で待ってるからって。
 
 ティファニーの白い頬を涙の色が伝う。
 暖かいのは涙だけじゃない。
 彼の笑顔だって…。





 ◆◇◆
 
 【9年前】

 「大人になった時、助けに来るから。君は一人じゃない。僕が居る。だからそれまでは、さようなら」

 森に囲まれた場所。
 桜の木の下で。
 彼は笑って言った。
 風が優しくて、空気が透き通ってるこの場所は、酷く心を締め付ける。
 でも苦しくなかった。
 喧騒とした都会の濁った空気よりも。
 ここは自分達を受け入れてくれたから。
 だからティファニーは信じられなかった。
 6歳であった彼女には言葉を反芻するのに時間が要した。
 彼の此れまでに無い笑顔の所為でもある。 
 
 「…え? さようならって、なに…? うそ…だよね? だってずっとふたりきりだって…」

 涙を堪え言いたいことを言う。訊きたい事を訊く。
 それでもこのもやもやは消えなかった。

 「遠くに行かなきゃ行けないんだ。大丈夫。君が15になるころに、ここで待ってるから。僕が大人になったら、ここで待ってるから」

 そう言ってアルファードは悲しい笑顔を絶やさずに後ろを振り返り、行ってしまった。
 ただ佇んでいたティファニーは、彼の背中が見えなくなる頃に、泣き崩れた。
 いっぱい泣いた。
 幼いが故に心のコントロールが利かない。
 それでもこの悲しみを目一杯外に放り投げた。
 今は泣こう。
 そして約束の日が来たその時は、笑顔で来るんだ。
 この場所に。

 ◆◇◆



 

 学校帰り。
 ティファニーは寄り道をしていた。
 明日を迎えれば15歳なのだ。
 彼と歩いたこの街を満喫したい。
 前までは嫌だった人の群れが、今では懐かしくさえ想う。
 二人歩いて一人。
 早く逢いたいな。
 アルファードに。
 ティファニーは軽い足取りで街を徘徊した。





 ◇◆◇





 なんでだろう。
 なんで帰るなり殴られるんだろう。
 玄関を開けた瞬間に父に遅いと殴られた。

 痛くてビックリしたけど、今は無駄な抵抗をしている。

 新築開拓を済ませたこの家は、広くて部屋を余らしていた。
 何階まであるだろうか。
 確か四階ぐらいはあったはず。
 そんなことを思いながら必死に家の中を逃げ回る。
 さっき灰皿で頭を殴られそうになった。
 飛んできたそれを避けたら後ろの壁にあたり鈍い音を立て落ちた。
 酒臭いのは酔っている証拠か。
 隙を見てティファニーは父の脇をすり抜けた。