二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.14 )
- 日時: 2011/02/28 20:29
- 名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)
さよならか抱擁か、そのどちらかを君に
少しずつ浄化される雫たちを纏いながら、夜を抱いて仮初めの籠へ戻る。心地よい冷たさが心さえ冷やしてゆくから、冷静さを保っていられる。天秤にかけてみても答えは出ないから、いっそ我武者羅に壊してしまおうか。ああ、此れの何処が冷静であろうか。
しとしとと、足音さえも湿り気を纏う。真っ暗の廊下でゆらゆらと昇る紫煙を見つけて、小さく息をつく。
「・・・こんな時間に散歩ですか」
「お互い様だろーが」
怪しまれている。敵意剥き出しの眼が、暗闇に鈍く光った。少しだけ、あの男が醸し出す不可思議な空気を感じた。
真夜中に籠から抜け出す。嘘もつく。そうして平気で笑っている。それが、人間だ。
「明日仕事あんだろ。早く寝ろよ」
土方は其れだけ残して、立ち尽くすわたしを追い抜かしてゆく。此の男は、何時でも素っ気無い。其の癖に身に纏う隠し切れない獣のにおいに、何故だか寄り添っていたくなるのだ。わたしの戻る場所は、其処だから。虚勢ではなく。
「・・・・・・副長は、何してたんだ?夜遊びか、それとも女でも買って来たか」
「馬鹿言うんじゃねーよ。明日働くエネルギーそんなことに使わねえ。・・・・・・外の景色が見たくなったもんで。雨のにおいがするだろ」
「わたしはあまり鼻が効かないが・・・そうだな、雨のにおいだ」
雨のにおいは、懐かしい。戦場に降る雨は、血の臭いを煽る。窓外の穏やかな雨は、時に涙を誘う。狂おしいあの頃の熱を、静かに静かに蘇らせる。
「———鬼の副長ともあろうお方が、ロマンティックに雨を眺める。其れもまた、美しい」
「何言ってんだテメー」
「哀しくなったら、抱かせてやっても構わないぞ」
「・・・・・・は?・・・・いや、は?」
こういうロマン溢れる情景の中で、ひとつやふたつ冗談を交えて男と話すのも、なかなか面白い。認めたくないが、わたしは高杉に似てきていると最近思う。
「手前みたいな腐った女は嫌だ」
「はは」
不意打ちの罵り。其れさえ、哀しく聞こえる。奴が抱くべき女を、わたしは知っている。先日沖田に教えてもらったばかりだ。此の雨が、土方にとってどんなものなのか、わたしには見当もつかなかった。
懐に収めた凶器を、何時取り出そうか。恐れが募るばかりで、手を伸ばすことさえ出来やしない。心臓を掴める距離で、胸の高鳴りを抑えることしか出来やしない。大馬鹿者は、死ぬことさえ出来ない。
わたしは、また、苦しむ。
土方は困ったような顔をして、「じゃあな」と横を通り過ぎた。今だ。今だ。奴の背中を、此の短刀で、
「俺は天国で手前を抱きたい」
斬れ、斬れ。
鳴り響く鼓動が、告げる呪いの言葉。男の甘い囁き。左様ならば今から参りませう、天国でわたしを幸せにして。
静かに落つるは一滴の雨。そして今宵の闇は紅に染まる。