二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.15 )
- 日時: 2011/03/01 16:37
- 名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)
愛憎
「————トシっ、トシ!!」「副長ッ!」
悲痛な叫びが聞こえた。幾つも幾つも、頭上で煩わしい程の声を聴いた。
重い目蓋を開ければ、鈍い痛みを腹部に感じた。腕に畳のあとがくっきりと浮かんでいる。自分が何故、こんな場所で寝ていて、何故皆が自分を必死で呼んでいたのか。其れに気付いたと共に、俺の傷がまた喚く。
「・・・・・・トシ、気付いたか」
「こん、どー・・・さん、」
上手く声が出ない。絞り出すように男の名を呼んだ。
「トシ、誰にやられた?山崎が、廊下で腹を刺されたお前を見つけたんだ」
「・・・腹?」
疑問符をそのまま自分の腹部にぶつけてみる。確かに、腹を刺されている。ぐるぐる巻きの包帯の下。
あの女、俺を殺さなかったのか?
「土方さん、あんたが敵に背中を見せるたぁな」
呆れたように笑う沖田。
「・・・そういやぁ、棗は?」
「昨晩から見ていません。・・・局長、まさかあの女、」
「・・・・・・やめろ。棗のことは、とりあえず置いておこう。今は、トシを刺した犯人を」
「———そいつだ」
俺は掠れ気味の声を精一杯に震わせた。
「・・・・・・トシ?」
「夜中の・・・三時ぐらい、だ。俺ァあの女と廊下で話した。・・・で、別れ際に、背後から、」
「馬鹿言ってんじゃねえよ!」
「うるせえ!・・・・俺のことはいいからテメーら早く仕事しろ」
「トシ、」
「俺が全部悪い。・・・油断してた。あの女は敵だ」
信じて貰えなくて結構だ。敗者の傷に触れることはタブー。何も話したくなかった。棗は、怪しいと思っていた。けれど斬ることを躊躇った。何故か。女だから?——否。
あいつを殺さなかったのは、俺だ。
「・・・正直、俺も棗は怪しいと思ってやしたよ。とりあえずするべきことは、棗を探すことだと思いまさァ」
「・・・・・・」
部屋は静まり返る。全員が棗を疑っている。思えば最初から、皆信じていなかった筈なのに。あの女のことなど。だけど今は誰もが、棗の罪を認めたくなかった。
「・・・そうだな。よし、お前ら、棗を探せェ!」
近藤が痛ましげに指示を下す。俺は、立ち上がることも出来ない。プライドをへし折られたことよりも、辛いものがある。
「はい、局長ォォ!!」
隊士たちは鴉のように散り散りに街へ飛び出した。
「———トシよ、棗にやられたってのは、真実か?」
近藤の問いに、俺は暫く返答を躊躇した。
「・・・・・・・・・、そう、だ」
か細い声が、情けない声が、心の奥底からするりと抜けた。目の前の男は何も言わない。
「・・・・・・近藤さん、いっそ俺を斬ってしまうか」
「・・・何を言っている」
情に流される此の俺を。背から貫かれた惨めな傷を持つ、此の俺を。
「まァた、二の舞じゃねえか。・・・・・・俺の所為で、な」
「・・・・・・いい加減にしろ」
其の眼は一切の濁りを吸収し、浄化する。俺は男の言葉を、鼻で笑って返した。
ひとつだけ、いや、たくさん、気になることがある。あの女は、どんな顔で俺の腹を抉ったのだろうか。どんな思いがあって、俺の心臓を貫かなかったのだろうか。何故、俺を殺さなかったのか。