二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.16 )
- 日時: 2011/03/02 19:53
- 名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)
涙の雨を枯らして、幾千の夢を
朝が来れば碧空は涙を落とすのをやめた。露に濡れた木の枝が淡く輝いている。染井吉野は蕾を宿し始め、まだ冷たい風の中で其れを抱いていた。
「銀さーん、何時まで寝てんすか。ちょっと、其処どいてくださいよ。掃除するんで」
「寝ちゃいねえよ、っるせえなぁ。・・・っ痛ェ!ジャンプの角を頭に突き刺すのはやめよう!?ね、ぱっつぁん!」
しっとりした空気にそぐわない五月蝿い声を押しのけるように、束にされた数冊のジャンプを持ち上げる。銀時は頭を掻きつつ外に出た。階段を下りてゆく掴めないリズムを聞きながら、埃をゆっくりと箒で掃いてやった。
軽い掃除を終えると、僕は何時も銀時が寝そべるソファに身を委ねてみた。軋む音と共に、背が少しだけ沈んだ。
「・・・・・・静かだなぁ、」
神楽は姉上の元へ出かけているし、銀時は先刻家を出たので、珍しくも此の家に独りきりとなった。
ひとりでいると、三人のときよりもずっと五感が正常に働くような感じがする。眼鏡の度数は変わらないのに、部屋の様子は鮮明に此の眼に移る。何時もよりも鼻が利く。銀時の気だるいような甘ったるいようなやる気のないにおいや、神楽の夏に咲く花のような、日を浴びたにおい(日の光を拒む身体なのに何故だろう)。其れらが全て呼吸と共に寄せ集められる。
ぼうっと虚空を眺めた後、籠に入れられた飴玉をひとつ口に放り込んだ。銀時の好きな甘味。懐かしい、褪せたような苺の味が口に広がって、眼を細める。
窓の外からは切り取られた景色が淡く見える。覗く青空は昨夜の雨の色を少しだけ残して、控えめに輝いている。
「・・・銀さん、何処行ったんだろ」
銀時は偶にぶらりと外の世界へ飛び出す。何を考えているのかは知れないが、帰ってくるときは何時も機嫌がいい。以前そんなことがあったとき、何をしてたのかを聞くと、何でもいいじゃんと言われた。誰かと会っていたのかと聞けば、
「天然ボケともじゃ毛とちび助」
そんな単語の連なりを空言のように呟かれた。誰のことなのか、全く解らない。本名を言ってくれないのは、言いたくないからなのかもしれない。そう思ってそれ以上は追求しなかった。ただ、悪い人じゃないんだろうなと、心の何処かで感じるのだ。
此のままソファで寝てしまおうか。気まぐれに考えて、眼鏡を外し机にそっと置いた。瞳を閉じればゆるやかな銀色が目蓋の裏を掠めた。其の色は酷く穏やかで、あの男のものとはかけ離れていた。だけど、間の抜けた鼻歌を歌う男の中にも、漂白されたような褪せた銀が潜んでいるのかもしれない。そう思うと可笑しくて、声を上げないように笑みだけ作って、静かに果てない夢へこの身を預けた。