二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.22 )
日時: 2011/03/05 00:43
名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)




 硝子の金平糖で唇を穢して




 泥沼に浸かったように足取りは重く、朦朧とする意識の中で必死に自分に鞭打って、霞んで見えづらい眼を一杯に見開いて、夕闇に没した街を歩く。
 汗ばんだ手にはまだあの短刀が握られていることに気付き、急いで血に塗れた其れを懐へ隠した。紛れもないあの男、土方の血。裏切ることはわたしの十八番であり、誰よりも慣れている筈だった。なのに、今、何故こんなに此の胸は痛いのだろうか。自分が自分じゃなくなる感覚をリアルに感じて、わたしは涙を零す他に何も出来なかった。
 何処に向かおう。只ぼろぼろの身体を泳がせているだけでは何時かは死んでしまいそうだ。情けないことを考えた挙句、自分の居場所へ戻ろうと決めた。わたしに居場所をつくったのは高杉だ。他の誰でもない。其れがとても悔しい。こんな時に奴の声を思い出して、此の惨めな滴を抑えることが出来なくなった。


 薄汚れたスナックの前まで歩みを進めたところで、脚が悲鳴を上げ始める。思い出せばずっと屯所から走ってきたのだ。壊れそうな精神で、崩れそうな身体で。わたしは道端にしゃがみ込んだ。無様な女。此のまま夜が明けるのを待とうと、瞳を閉じたところで、頭上から五月蝿いほど元気な声が降ってきた。
「・・・・・・お前、こんなとこで何してるアルか?」
 片言気味の日本語を操る子供。顔を上げればチャイナ服を着た少女が立っていた。
「リーダー、如何した」
 其の娘の後方、胡散臭く明かりを漏らすスナックから一人の男が歩み寄ってきた。リーダー、とは此の娘のことだろうか。だとすれば男は娘の手下か何かか。重い頭を必死に働かせていると、笠を深めに被った男は心配そうな面持ちを此方へ寄せてくる。
「・・・・・・お主、如何したのだ。気分でも悪いか。とりあえず、中へ入れ」
 男はわたしを軽々と抱き上げ、此の身体は成す術も無くスナックへ運ばれた。

 安っぽい店内の一角に座ったわたしは、男の顔をじろりと睨んだ。
「・・・何処か痛いところがあるか?すまぬが俺は用があって此処を離れなければならない。何かあればリーダーや新八君に、」
「————大丈夫だ。わたしのことは放って置いてくれ」
「しかし、」
「大丈夫だといっている。貴様は用があるのなら急げ。・・・・・・それと、有難う」
「・・・ふっ、わかった。では失礼する」
 そして男は取っていた編み笠を再び被ろうとカウンターに置いていた其れに手を伸ばした。其処でわたしはふと、此の男に見覚えがあると思った。そして其れは、確信となる。
「・・・貴様、桂小太郎ではないか」
「・・・・・・人違いだ」
「わたしは幕府の者ではないから答えてくれ、攘夷志士の桂だろう」
「・・・そうだが、何か?」
 やはり、とわたしは小さく息を吐いた。桂は困ったような顔をした。
「貴様、今から何の用だ。何処へ行くつもりだ」
「お主に言う必要はない」
「・・・教えてくれ。・・・・・・若しや、高杉の元ではないか?」
「・・・・・・!」
 桂は僅かに目を見開いた。
「何故・・・、」
「・・・わたしも、一緒に行ってはならぬか。其処へ」


 桂は暫し頭を捻らせた挙句、潔く頷いて、わたしの手を取る。チャイナ娘は、
「何処行くアルかー?」
と元気な声を此方へ向けた。桂は其れに笑みだけで答えた。
「桂さん、気をつけてくださいよ。最近幕府の人がよく偵察に来ているんですから」
「それくらい解っている。・・・・・・しかし、銀時は何処にいるのだ。迎えに来てやったのに」
「銀さんならどっか行っちゃいましたよ、お昼頃」
 眼鏡の少年の其の言葉に、桂は深く溜息を吐き、そして小さく頭を下げスナックを後にした。わたしも其れに続いた。