二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.23 )
- 日時: 2011/03/05 16:58
- 名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)
YOU LOVED THE WORLD
今宵の闇は冷たい。日中の温もりを嘲笑うように朽ちたような空気が堕落した街を襲う。屯所にも同じくらい冷えた温度が流れていた。誰もが何かを怖れ、誰もが何かに憂い、誰もが錆びた愛を噛み締めた。
とある一室、土方は死んだように眠っている。其の傍らに俺は膝をつく。乾いた畳の音が聞こえたようで、男は重い目蓋をゆっくりと開いた。
「・・・・・・起きちまいやしたか」
「・・・お目覚めにオメーの顔なんざ見たかねえな、」
掠れた声は俺に罵りの文句を吐き捨てた。其の苦し紛れの嫌味に俺はザマーミロと心の内で奴に冷笑した。
「腹ァ、どーです。大分良くなりましたか」
「・・・こんなの傷の内にも入らねぇな」
「強がらなくていいでさァ。———如何足掻いても弱いだけの男が、」
「・・・・・・テメェ」
強い獣の眼が俺を睨んだ。酷く鋭く、惨めだ。
「女に夜襲されるたァ土方さん、其れは弱いっていうんでねぇかィ?」
「・・・・・・・・・黙れ」
返す言葉も無いというように男は再び俺をじろりと睨み、眼を閉じた。
「———土方さん、あんま情けねえことなさってると、副長の名がへし折れますぜ」
「・・・・・・そう言う癖にお前は何時も本気でかかっては来ねぇな」
「・・・皮肉でさァ。其れは、俺が弱いんでィ」
「そーかい」
此の男は、俺に殺してくれと言っているのであろうか。閉じられた瞳に気迫なんてものはなく、其の阿呆面は只眠った振りをする。
俺が本気でかかって来ないって?本当に皮肉だ。何時だって俺は本気だというのに。だけど、殺すつもりでかかったって、奴は、土方はおとなしく殺されてはくれない。血を帯びた眼が、昔の面影を纏う其の面が、俺の剣を薙ぎ払う。姉上が居た頃からずっと、俺は変わらず、土方ばかりが丸くなっていく。其れなのに俺は、女に殺られるような男さえ殺せない。
「———俺よかお前のほうがずっと強えーよ」
静かな声が響く。
「俺ァ弱い。そんで吐き気がするほど甘い。どっかの糖分王よりも甘ぇーよ。あの女を殺すつもりでずっと居た筈なのに、あの時あいつを追うことも出来なかった」
淡々とした、声が響く。
「・・・総悟、お前なら、あいつを殺れたか。どうしようもないような馬鹿な女を、お前なら殺したか」
其の声は俺の心臓を掴もうとした。避ける術も無く俺自身ごと引き寄せられた。
「————」
だけど其の問いに、答えることは出来なかった。
此の世界を憎む者が居る。そいつらは俺たちの敵だ。だが俺は此の世界を愛せない。こんな非情でこんなに甘くてこんなに脆い世界に流されるなんて絶対に厭だ。けれども此の男は、其れでも浮世を愛し尊んだ。此の世に生まれ落ちたこと。此の世で自分を受け入れる者と巡り会えたこと。此の世で心を持てること。
俺はどうしても愛せなかった。此の世に生まれ堕ちたこと。此の世で自分を受け入れる者と巡り会えたこと。此の世で愛するものを失うこと。此の世で欲望も満たせないこと。
どうしようもなく溢れるものがある。其れは涙ではなかった。けれど男は其の血塗れた身体を起こし、俺の頭を優しく撫ぜる。