二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.24 )
日時: 2011/03/06 12:45
名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)



 君が散らした花びらは汚れていくのだろうか




 高杉の屋敷へ向かう道中、棗と申す娘とは口をきかなかった。多少苦しそうな声が聞こえたので、俺は心配する素振りを見せた。だが、まだ女に心を許す気には、到底なれない。
 其の着物は泥だらけだった。きっと昨夜の雨の中、転びでもしたのだろう。俺は女に問う。
「着物を買うか?そんな格好ではあいつが厭う」
「・・・・・・じゃ、お言葉に甘えて。先に行ってても構わん」
「いや、いい。此処で待っている」
 
 着物店の壁に背を預けて、店内へ入る棗の後姿を細目で眺めた。高杉と繋がりのある女といえば、かの紅い弾丸ぐらいしか存じない。あの娘は見た目でそこそこ強い人間だと判断できるが、棗は比較的穏やかな外面だ。高杉の恋人であろうか。と、其処まで考え、ないない、と首を振る。
 面倒なことを考えているうちに、棗は店から出た。黒い布地に白や空色の花を散りばめた、太夫を連想させる着物姿だった。長い髪は上のほうでひとつに束ねただけだったが、其れだけで充分な華やかさを纏う。
「・・・どうだ?」
「やはり女子は美しい」
「ふふ、こんな格好をしていると、吉原に居た頃を思い出す」
「・・・お主、遊女だったのか?」
「・・・・・・」
 女は静かな笑みだけを俺に寄越した。吉原の女だったのならば、地上に逃げてきたのであろうか。いささか無理な話だと思うが、世の中は何が起こるか計り知れない。現に、常世の国吉原にさえ、今美しい月の光が降り注ぐ。

「———其れでは、行こうか」
「ああ」
 棗は紫煙をゆるゆると吐いて、キセルを懐に仕舞った。高杉も其れを愛用していたとふと思う。


 暫し歩みを続けると、辺りは夜の色を深め、穢れた街は宵闇に沈んでゆく。高杉が姿を潜める屋敷の前まで来れば、弦楽器や小唄の音色が微かに聞こえた。懐かしさを感じさせるにおいと、風流な外観。
 使用人と思しき女が、俺と棗に名を問い、静かに頷いて俺たちを連れてゆく。奴の元へ、ゆるやかに誘われる。

 開いた扉の向こう側はやけに眩しかった。其処には紫に溶かしたような黒髪と、やる気の無い銀髪があった。珍しくも高杉が銀時に酌をしている。
 高杉は少々驚いたように右目を僅かに見開いた。銀時は俺の背後に居る棗を見、誰だろうかと首を傾げた。そして、いずれも夜に酔うた顔を綻ばせ、俺たちを招き入れた。