二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.25 )
- 日時: 2011/03/06 16:16
- 名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)
曇天の下を駆ける者の心知らず、死に逝く者は安らかで。大切なものは何処かに忘れてきた。あの人に教わったことだけが振り翳す刀の音と共に散らばってゆく。暗闇を走るほどに未来は眩しい。流した涙も血も、悲しみも怒りも喜びも、共有し合えた仲間が居る。今は道を違え袂を分かち、見せる顔さえ、知らない。
限りない喜びは遥か深く、前に進むだけで精一杯。今日の無事と明日の健闘を願って。そうやって何度も盃を交わした。巡り巡り影差した、あの光を今も探してしまう。
やわらかな思い出は心にしまって
俺は銀時の盃に並々と酒を注いだ。銀時は愛おしそうに其れを見つめ、注ぎ終えたら今度は俺に視線を移した。
「お前がやってくれるなんてめずらしーな」
そう微笑む姿は、あの頃とさほど変わらない。浄化したのか汚濁されたのか解らないが、死んでしまった其の眼を俺は嫌う。気だるそうな素振りで近づいて、あっと言う間に吸い込まれる。俺は何か喋ろうと口を開いた。だが其れは無駄に終わる。扉が開く音が聞こえ、廊下の闇が此方へ入り込んだ。
「———遅れてすまない」
桂だ。そして後方に佇むのは、棗だった。
「・・・遅えよー、ヅラぁ」
銀時が甘く言った。
「ヅラじゃない、桂だ。・・・・・・其れと高杉、棗殿だが、」
「・・・・・・どーしたよ棗?随分シケた面してんじゃねェか」
俺は桂の声を遮って後ろに居る女に言った。そいつはたどたどしく部屋に入り、ゆっくりと腰を下ろす。
「———わたしは任務をこなせなかった。土方一人、殺ることができなかった。・・・高杉、わたしはもう此処にいれない」
棗は押し殺した声を出した。泣きそうな子供のような声。
「わたしを殺してくれ」
其の呟きははっきりと空気を震わせ、俺の元へ届く。
「・・・馬鹿か手前は。ハナからお前みたいな馬鹿女に出来ることじゃねえって解ってたっつーの」
「・・・・・・」
棗にそう話しかけた後、少しだけ酔いが醒めてしまった気がして、俺は盃を隣に居る銀時の前に差し出した。男は無言で酒を注ぐ。
「———殺すかよ。俺に愛された女が、生意気言ってんじゃねェ」
「・・・・・・」
そいつは静かに涙を落とした。糞真面目な奴。俺は思った。そんなところが愛おしい。時々此の女から漂うにおいは、あの人のものと似ている。あの人も糞真面目で馬鹿だった。だから、俺はあの人が好きだった。
「・・・・・・あのォ、其の子もしかしてお前が言ってた“駒”?」
銀時が呂律の怪しい声を放つ。俺は頷いた。
「あァ。・・・鬼兵隊の、黒い引き金だな」
紅い弾丸こと来島また子。そして棗は闇色の引き金だ。其のトリガーを引くのは俺。弾丸は飛んで飛んで爆ぜる。
「———成程な。棗殿が、そうなのか。・・・噂には聞いていた。黒い引き金なる者が鬼兵隊に潜むと。・・・・・・ところで棗殿、お主、俺と何処かで会ってはいまいか」
「・・・・・・悪いが、貴様の顔に覚えは無いな」
棗は否定する。其処へ銀時が飛び込んだ。
「俺もさァ、今思った。棗ちゃんよォ、俺の顔には見覚えあるかい」
「・・・貴様のようなふてぶてしい白髪天パーに出会うた覚えはない」
棗はまたもや否定。
俺も棗と初めて会ったとき、そんなことを思った。だが言わなかった。会っているとすれば、其の場所は限られているから。
「其れ酷いんじゃないの!ねえ!」
銀時の悲痛な叫びも虚しく、棗は空になった俺の盃に酒を注いだ。俺はひとつ笑みを浮かべ、其れを口に流し込んだ。
赤く燃える孤独な道を、誰のものでもない髪をなびかせ。道の先には蜃気楼。あの日を殺したくて閉じたパンドラ。銀時は白夜叉を殺し今を生きる。俺の愛した銀色は、今はもう、いない。桂はあの頃よりも一段丸みを帯びて阿呆な女のようになって俺の前に姿を現した。俺は腹立たしくてならない。闇を駆けた盟友たちよ、其の身体に眠る魂をもう一度見せてくれ。
椿屋四重奏/BURN 参考・引用