二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.27 )
日時: 2011/03/11 23:57
名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)

 花は落ちて心を覆って




 胡散臭く古ぼけた村塾に小さき魂は集う。てんでばらばらに散りばめられた魂が見つめるものは一筋の光だった。其の光は淡く漂白していて、決して眩しくはない。如何してだか其れを求めて皆笑顔を振りまく。
 春真っ盛りの草原。只立ち竦む俺だけ時間が止まったままのように、誰もが走り回ってはしゃいで生きていた。ひときわ目立つ其の男はそんな俺の髪をふわりと撫でた。

「———世界は馬鹿げていると思いますか?」
 酷く穏やかな声が高いところから聞こえて、俺は睨むようにその優しげな男の瞳を見上げた。
「死んでしまいたいと、思いますか?」
 こんな餓鬼に、難しい質問をするな。と俺は奴を見上げる双眸にいっそう力を込めた。
「孤独は酷く哀しい。貴方は血に塗れた世界に独りきりで、寂しかったでしょう」
「・・・・・・べつに。此処に居る方が、よっぽど落ち着かねえ」
 不貞腐れたように言ってやると、男はくすりと笑って草の上に腰を下ろした。目線が重なる。其の瞳が優しすぎて、思わず逸らした。

 下を向いていると、頭に何かが刺さった。痛い。顔を上げると、はらりと紙飛行機が草の上に落ちた。
「・・・・・・わりー」
 黒髪のちび助が傍に駆け寄って、小さく頭を下げた。長い黒髪を結った女のような男も続いて、
「大丈夫か?悪かった。・・・・・・一緒に遊ぼう?」
 微笑が降り注ぐ。隣で抑えた笑い声がするのを忌々しげに聞いていた。
「・・・・・・・・・いい。此処で寝てる」
 こんな穏やかな春の日は、寝転がって眩しい太陽を見ていたい。血みどろの俺には降り注ぐことのなかった陽の光を。俺は首を緩く振った。
「・・・そうか。じゃあ俺もそうしよう。ほら、高杉も」
 長髪の男はそう言って俺の隣に寝転ぶ。高杉と呼ばれた男も渋々というように同じようにした。
 俺は何故だか胸の奥底が熱くなって、逃げ出したいような衝動に駆られて、立ち上がろうとした。だけど手を掴まれて其れに失敗する。
「何処に行くんですか。春の陽は穏やかで気持ちいいんでしょう。仲良く屍の振りでもしていましょう」
 男が言う。不謹慎だなあと思った。だが其の屍を椅子代わりに盗んだ飯を喰らう餓鬼のほうが、よっぽど最低だと思った。

「———松陽先生、船が飛んでる」
「そうですね。天人の船です。巡り巡って人々は血を流す。・・・・・・もしも、お前たちのちっぽけな勇気で救える世界があるとするなら、お前は如何しますか?」
 小太郎と呼ばれた男は、憂うような瞳で空を泳いでゆく船をなぞった。
「・・・此の勇気で救えるならば、剣を振りたい、です」
 小さな言葉が紡がれる。下らない。興味ねえな、と思った。
 
「先生は戦わないんですか?」
 高杉が視線を空に向けたまま尋ねた。
「私の剣では斬れませんよ」
 男は弱々しく笑った。俺たちに斬れて、奴に斬れないもの。私の剣では。俺が腰に携えるものは其の男の剣だ。
 訳も解らず俺は舌打ちを放った。高杉がじろりと俺を睨む。気にせずに閉じた目蓋は日差しを浴びて乾いた心を癒してゆく。