二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 銀魂/我が愛しのロクデナシ ( No.3 )
日時: 2011/02/26 13:21
名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)





 嘘を吐くのはひつじたち




 何でもないように夜明け前の世界を見渡した。祝宴の席には、ぐうぐうと幸せそうに項垂れる男たちがいる。局長でさえ酔い潰れてしまい、朝までこのまま敵襲を怖れなければならないわたしと副長の土方がいる。敵襲を怖れる、なんてわたしが言えることではないが、わたしは今は真選組なのだった。


 気ままに浮かぶ二つの煙は、ゆらりと交わって部屋中をのろのろ踊っている。煙草のにおいは好きだ。隣に居る土方が、あの男に見えて仕方がなかった。夢見心地でうとうとと、疲れ果てた目蓋を閉じようかとしたとき、後方で声が聞こえた。

「あれ、土方さん・・・と、お嬢さんじゃねぇですか」
「おう総悟、」
 甘いマスクに優しげな声。お嬢さん。こいつが言うと割と様になるんだな。わたしは少しだけ感心した。
「煙たいでさァ、土方さんだけでも相当身体に悪いってのに」
 そんな嫌味も聞き流そうとしたけれど、ひとつ微笑みを残してわたしはキセルを仕舞った。
「あぁ、すまねぇなァ。いい女ですね、あんた」
 沖田は愛嬌を振り撒きながら顔を近づけてくる。振り向いていた顔を戻そうとしたけど、止められる。
「キレーな顔だ」
「おい止めろ」
 土方が軽く嗜め、沖田は渋々その手を私の顔から離した。「嫉妬ですかィ?」と残して。だがそんな文句にも土方はお構いなしだった。さすが大人だ。

 再び春の世界に視線を移せば、沖田もわたしの隣に腰を降下ろし、三人仲良く縁側で外を見つめた。



「沖田隊長、」

「なんでィ?」

 虚ろな夢のように、水槽の中の金魚のように、わたしはまだ醒めない夜の味をそのまま声にした。

「わたしを女のように扱うのは、止めて欲しい」
「そりゃまた、どーして」
「・・・・・・そう問われると難しいな。・・・わたしも、飢えた獣のようなものだ。女だからといって余計な遠慮をされるのが、大嫌いなんだ」
「・・・まぁ、言いたいことは解った」
 沖田は柔らかく笑みを浮かべて、瞳を閉じた。
「ねみー・・・」
 もうすぐ夜が明けるのに。土方は浅く溜息を吐いた。

「お前の覚悟がどんぐれーのもんかは定かじゃねぇが、半端な気持ちで真選組に居座ってくれんなよ。俺はお前を斬る覚悟なんざとっくにできてる」
 覚悟、か。
 後ろにいる奴ら、見てみろよと思った。だけどわたしとて、貴様を斬る為にここにいるんだ。

「———いい男だな、あんたは」

 わたしは静かに言葉を紡いだ。男は盛大に不愉快そうな顔を作り、やがて立ち上がり寝転がる隊士達を起こしに行った。

 いい男だ。ウチのと大違い。


「奴は確かにいい男でさァ、ただしシャイだ」
 沖田が笑みを残したまま言った。
「・・・ってなわけで、よろしくなァ。棗」

 柔く握手を交わし、物分りのいい男だと思った。お嬢さん呼びは懲り懲りだ。
 朝日が漏れ込んだ。当たり前のように朝が来た。