二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.30 )
- 日時: 2011/03/14 22:03
- 名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)
慶びと混沌は紙一重
窓を拭く高杉の捲られた腕からぽたり、と透明な滴が落ちた。其の白い顔にも汗が光っている。べたつく手に握った雑巾をぎゅっと握りなおして、俺も窓に擦りつけた。後方では鬱陶しい銀髪パーマ。雑巾を洗う振りをして手ばかりを冷やしている。
「・・・おい、銀時。真面目にやらんか」
俺は溜息混じりにそいつを窘める。怒る気力なんて微塵も失せて、溜息だけが残った。
「おいヅラぁ何処見てんだ手前?俺ァ手前らみてーにきたねえ雑巾で窓拭く気はねえの。こーやって綺麗にしてから・・・」
「うるせえ」
力説の銀時を横目で睨む高杉。軽く唇を尖らせる少年。
銀時が此処に来て今、夏が天上へ向かっている。昇る昇る太陽の熱はじりじりと屋敷を焦がすよう。其の銀髪の少年は、やたら饒舌で毒舌で、馬鹿で阿呆だった。初めの頃のあの、殺戮を醸し出す眼の色は穏やかに褪せてゆき、今では此の萩の空気にすっかり馴染んだ。
そして奴の登場により、先生が一段と楽しそうなのだ。幾ら銀時がうざったくとも先生の笑顔を見るなり文句のひとつも窄んでしまう。其の笑顔に手を引かれる高杉も俺も、自然と顔が綻ぶのを感じた。
掃除を終えると先生は俺たちを外へ連れ出した。お馴染みの樹の下だけれど、前に来たときよりも夏のにおいを感じた。太陽の下、太陽のような鮮やかな色がたくさん咲いている。
「・・・・・・ご存知ですか?」
先生の穏やかな声に振り向けば、銀時が不思議そうに其の花を眺めていた。
「いや、知らねえ」
首を振ればふわふわと銀髪が揺れる。先生は優しく笑って、扇子をぱたぱたと泳がせて俺と高杉を見た。其の生温い風に誘われて、俺たちは駆け寄る。
「此の花の名は?晋助」
先生は高杉に問う。
「———向日葵」
高杉は呟くように其の太陽の名を呼んだ。同時にさわさわと吹いた風が花を揺らした。
銀時は暫く向日葵を見つめていた。其の興味深々な姿が面白くて、高杉と共にばれないようにくすくす笑った。振り返れば先生も笑っていた。
「・・・思い入れでもあんのかよ。ずーっと見てんぜ」
高杉が声を届ければ、銀時はこちらを向いてふ、と笑みを零す。其の穏やかな顔に息を呑んだ。向けられた瞳に少しだけ戸惑い、そして高杉も同じように微笑んだ。俺もつられて笑った。
「忌々しいなーっつって」
ふと銀時が漏らした。此方ではなく、向日葵に向けて。
「こいつ、太陽に向かって伸びてんぜ。焦げもしねえできらきらしやがって」
俺は其の言葉の意味が解らなかった。確かに陽に導かれるように伸びているけれど、何の罪もない美しき花を忌々しく思う銀時が不思議で仕方なかった。
「———ああ、わかるな」
隣で高杉が呟いた。
「・・・・・・俺には、解らない、」
輝く其の花は眩く美しい。太陽を求めて太陽のように育った其の花は、只優しい。其れだけだった。俺にとっては。
「・・・先生は、如何思いますか」
銀時の後ろで微笑む人に尋ねれば、彼もまた、笑うだけだった。
其の姿は太陽のようで。向日葵のようで。
俺はくらくらと眩暈を覚えた。