二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.36 )
- 日時: 2011/03/19 19:40
- 名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)
迷える仔羊のレーゾンデートル
向日葵と呼ばれる太陽は夏が昇りきって尚も光を求め、其の色は鮮やかさを増してゆく。自分の奏でる倦怠感溢れる溜息の音と蝉の声が重なった。庭に植えた木々の下には空蝉が転がっている。精一杯鳴いて泣いて、そして死に逝く哀れな其の抜け殻。しかし哀れか如何かは我々人間には計り知れないことだった。そう考えたが、自分を人間と呼ぶことがあまりに可笑しくて己を嘲笑う。
夕陽の見える川の畔、三人で草の上に座った。高杉はなにか魚でも捕ろうとしていたのか、体勢を崩して水の中に勢いよく後ろ向きで落ちた。俺と桂は其れを見て小さく笑う。
陽は山へ帰ろうとしている。赤い光がいやに目に焼きつくので目を逸らした。
「銀時、高杉、そろそろ帰ろう。先生に遅くまで外を出歩くなと言われたろう」
「まだ充分明るいぜ」
「親が心配するぞ」
「親の話なんかききたくねえよ」
高杉は横目で一瞬だけ俺を見た。家の話をされたって別になんとも思わない。桂は俺を苦しめたいわけではないし、高杉も俺を庇ったわけではない。
高杉の腰には立派な家紋が刻まれた剣。桂も同じように其れを携える。今日だって高杉が邪な餓鬼に突きつけていたが、桂は何時も止めた。
夕陽は時を刻むごとに色濃く、夕闇は深くなってゆく。もう少しだけこうしていたい。草の上に寝転んで蛙や蝉の声に耳を傾ければ、夏だなあと改めて感じた。今年の夏は、やけに暑苦しくて汗をたくさん流した。夏の夜は哀しい。ひとりで居ても、皆と居ても。
沈黙は穏やかで心地よい。村塾までの道のりは長くないし、まだ腹も減らないのでこのままでいい。そんなことを考えつつ目を瞑ると、上の方で足音が聞こえた。川原をのんびりと歩いている桂と高杉が道を見上げた。俺も身体を起こし足音の主を探す。
「————如何したんだ、お嬢さん」
桂が最初に言葉を発した。ひとりで歩くと危ないぞ、と付け加えて。
道を歩むは幼き娘だった。俺たちよりも大分小さかった。無垢な表情に短く切り揃えられた黒髪。服装からして、少なくとも俺たちよりかは裕福そうに見える。
「・・・・・・家を取られちゃったの」
少女はそう言って懐から手拭いを取り出し、川原へと下りてきた。
「・・・」
其の手拭いは血塗れだった。上質な素材に染み込んだ紅が落ちることはないだろう。
「此れ、お母さんの・・・。お父さんもお母さんも、怖い人に殺されちゃったの・・・・」
「・・・・・・其れで、家を乗っ取られたんだな?」
「うん・・・」
少女は掠れた声で頷く。大きな瞳には大粒の涙が溜まっている。
恐らく裕福な彼女の家を天人が襲い、両親が殺され、少女だけ必死に逃げてきたのだろう。綺麗な着物は所々破れ、覗く白い肌は傷だらけだった。
「可哀想に。銀時、松陽先生の元へ連れて行ってやれ」
「・・・・・・ヅラ、先生はボランティアやってるわけじゃねえんだぞ」
高杉が低い声で言った。どちらの言い分も解るが、俺は少女の手を取った。
「・・・銀時」
高杉は俺を睨んだ。松陽先生の負担になることぐらい解っているけれど、身体は娘の方へずいずいと吸い寄せられる。天涯孤独の自分と重ねているのだろうか。馬鹿だと自分を失笑しつつも俺は握った小さな手を村塾へ導いた。
「先生に如何こうしてもらおうとは思ってない。只、晩飯ぐらい食わせてもらおーや。なあ、お嬢ちゃん?」
潤んだ其の瞳に問うた。娘は申し訳なさそうに頭を下げた。俺は繋がれて居ない方の手をぽんと少女の頭に載せた。俺があの人にそうされたように。娘はびくっと震えた。俺は其の綺麗な黒髪を撫ぜた。
「・・・じゃ、また明日な」
道へ上がって、ふたりに手を振る。桂は小さく微笑んだ。高杉は不安そうに俺を見て、「ああ」と頷いた。そして、「先生に迷惑かけんじゃねえぞ、糞餓鬼共」と罵りの文句を吐いた。
「はは、」
俺は乾いた笑みを零して、歩いてゆく。震える小さな手を握って。