二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.39 )
日時: 2011/03/20 19:16
名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)




 何の為に夜があるのかご存知で?




 五月蝿いばかりの虫の声々も、沈黙を漂わせる俺たちも。夏の夜の寂しさを物語っているようで。陽は沈み、朧月が向こうで煌いている。繋がれた手のひらは汗ばんで心地よく冷たい。

 村塾に着くと、先生は俺たちを笑顔で迎えた。泥に塗れた隣の少女にも、俺に向ける其れと変わらぬ笑みを浮かべて。

「腹が減ったでしょう。今すぐ温かい御飯をよそいましょう。銀時、其の子と手を洗いに行きなさい」
 俺は其の言葉に頷いて、握った手を引き寄せて水道へ向かった。俺は手を洗うと、娘に手拭いを渡した。
「其れで身体拭けよ。泥だらけできもちわりーだろ」
「・・・・・・ありがとう」
 少女はあどけなく笑う。そいつの年齢に相応しい無垢な笑顔。俺は向けられた眩しさに戸惑った。


 茶碗に大盛りによそわれた白飯と味噌汁を、俺も少女も夢中で喰らう。口の中に広がる白米の僅かな甘味に幸せを感じつつ、必死で箸と口を動かした。少女の喰い方は早食いではあるが決して下品ではなかった。箸の持ち方から飯の咀嚼の仕方まで何処か気品を感じさせる。

「・・・ごちそうさまでした」

 俺は言った。娘の声も重なった。先生はくすりと笑みを零す。
「おかわり、ありますが?」
 先生が問うと、少女は首を振った。
「いいえ、お気遣い感謝します。其れでは、ご迷惑お掛けしました。失礼します・・・」
 少女はそう残して部屋を去った。戸を開ける音が聞こえて、俺も先生も慌てて其方へ向かう。
「なにしてんだお前。今日は此処に泊まれよ」
「そうですよ。此の時間に娘がひとり出歩くなど危険すぎる。・・・お前には還る場所がない。暫く此処へ居なさい」
「・・・・・・、駄目ですよ。わたしみたいな小娘が、こんなところで」
「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ」
「でも、」
「・・・・・・安心しなさい。ちゃんとかくまってあげますよ。此処には優しい子達が沢山居ます。此の少年のように」
 言って先生は俺の肩に手を置いた。俺は照れ臭くて俯く。
「お前の名前を言ってみなさい」
 先生は娘に真っ直ぐ問うた。娘は少しだけ惑う素振りを見せ、口を開く。
「・・・・・・夏代、と申します」



 夜は深まり、月光が燦燦と降り注いだ。天は涼やかに輝く。夏草は夜風に靡いて夏のにおいを村に撒いた。

「・・・なつよ、かあ」
「素敵な名じゃあありませんか」
 夏代は小さく頷いた。俺は、なつよ、と数回繰り返す。
「・・・夏代。生まれ落ちた運命を憎むんじゃありませんよ。誇りを忘れず生きなさい」
 先生は小さな身体に言い聞かせた。少女は恭しく床に正座する。
「———はい、松陽先生。そして銀時さん。暫しの間、宜しくお願い致します」



 夜空に冷やされた空気が身体に纏わりつく。
 先生は何時もと変わらない優しい笑みで、俺は下手糞に作った笑みで、黒髪の小さき乙女を受け入れる。梔子色の瞳は美しく月の如し。何処か艶やかさを纏う其の身体に俺は戸惑った。晩夏の夜は尚更けてゆく。