二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.45 )
日時: 2011/03/24 22:54
名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)




 触れなば落ちん




 行き場のない想いは何処に逃がせば良い?
 静かに枯れた温もりは路地裏を彷徨う。声を上げることも助けを求めることも厭う壊れた餓鬼。初秋の風は冷たさを増してきて、破れた着物の間から覗く肌に触れれば冷たい。

 ひと時の幸せを引きずっているだけでは生きてゆけない。あの人はわたしに生きろと言った。誇りを忘れずに、運命に身を委ね。
 あの銀色を思い出す。漂白したように淡い色素の中で鈍く輝く血の瞳を思い出す。其の少年、名を銀時という。銀時の浮かべる笑みは憎たらしいほどにわたしを虜にした。
 ヅラと渾名を付けられた少年を思い出す。桂小太郎。正しく強く真っ直ぐに生きる美しいひと。何時でもわたしを気遣ってくれた。
 皆よりも少しだけ背丈の低い少年、高杉晋助。悟ったような、つまらなさそうな表情で机に肘を突く姿を思い出す。冷たい文句に潜む温もりが忘れられない。

 如何してだか思い出だけが美しく鮮やかだ。村塾の皆を思い出す。涙が止まらなかった。溢れて溢れて、零れ落ちるばかり。如何して涙は出るのだろう。誰の為に、何の為に。如何してわたしは此処にいるのだろう。如何してわたしは———


「———お嬢ちゃん、如何したのォ。何、泣いてんの?ひとり?お母さんは?」


 頭上で汚れた声が聞こえた。顔を上げれば下劣な男が数人にやにやと不快な笑みを浮かべている。

「おにーちゃんたちとさァ、いいことしない?楽しいよぉ・・・」

 わたしは其の男共と目を合わせることさえ拒んだ。代わりに疲れ果てた身体を無理矢理に立ち上がらせ、懐に忍ばせておいた短刀でリーダー格の男を、




斬った。

 


 血の臭い、肉の裂ける感触、悲痛な表情。男は倒れ、周りに立ち尽くす他の奴らの顔が見る見るうちに怒りに染まる。

 初めて人を斬った。初めての感覚。壊れてしまいそうだった。枯れたはずの涙が湧き上がる。其の無色透明の液体に溺れそうなほどに、泣き喚いた。嗚呼、わたしはこんなにも餓鬼なのだ。
 煤けた路に倒れたリーダー格の男の腹から、どくどくと紅が溢れ出す。其れを囲む数人は、男の名を必死に呼んだ。また他の数人は、五月蝿く喚くわたしを睨んでいた。今にも襲い掛かりそうな瞳で。

 やがて其の男達は、わたしに向かう。駆け出す足。伸ばされた拳。目の前を襲った、黒い影。


「————いたいけな少女に何をする、手前ら」


 黒い影。顔を上げれば今度は澄み切った瞳と目が合った。
 そいつは男性というには少しばかり女々しい顔立ちをしていた。だがわたしを庇った其の身体は男の骨格だった。まだ幼い、少年の姿が、其処にはあった。

「・・・・・・餓鬼、手前こそ何だ。邪魔すんじゃねえよ」
「邪魔はどちらか。此処一体は俺の縄張りだ。路のど真ん中で幼女強姦するのは良くないな」
「・・・あれれ、俺は強姦なんてした覚えはねえけど?只、身寄りのない可哀想な女の子を、売り飛ばしてやろうかと思っただけ」
 ゲラゲラと笑う男共。少年は眼にも留まらぬ速さで奴らを薙ぎ倒した。
「————、っつ」
 ひとりだけ助かった者が居る。わたしが斬ったリーダー格の男。まだ意識があったようだ。
「・・・逃げないのか?弱い者は逃げたほうが身の為だよ」
 少年はにこりと笑った。かと思うと、倒れた男の傷口をぐりぐりと踏みにじった。
 悲痛な叫びが聞こえる。其の間に、仲間の男達は一斉に逃げていった。



「・・・・・・、」

 沈黙。

 やがて紡がれる其の言葉で、わたしに与えられた運命は逆転することになる。今はまだ、咲かない蕾が此処に佇む。